第135話武雷滅びの危機

 主同士が顔を合わせ睨み合う。

「夜影を連れ去るとは何を企んでいるのでござろうか。」

「ほう?そう思うたか。つまり、忍使いとはいうがそのところはしっかと見てはおらぬと。」

 要求は夜影を返せということなのだ。

 それで草然にまで訪れた。

 それに頼也が護衛として来ていた。

 頼也は虎太と見つめあっている。

 その目は夜影の安否だけを問いかけていた。

 此方に返してくれなくていい。

 返されたら二度目があるだけだ。

 虎太は夜影の安否を目で答え、二度目があるというならば暫くは返さぬようにしておこう、と。

 忍の方はもう一致した。

「何を言うか。大事な忍故に返せと言うておるのだろう!」

「大事と言うならば、忍に問うてみよ!このままでは返せぬ!」

 言い合いでは何も解決しない。

 夜影が主の気配を感じて顔を出したのに気付き立ち上がった。

「夜影!戻るぞ!」

 主の命令に頷きかけて頼也を見た。

 頼也は主の後ろから首を振った。

 頼也の手足、首に縛られた痕が残っている。

 それで夜影は察することができた。

 あの時応じなかったのは、封じられていたからなのだと。

 主はわかっていない。

 それだけは確かだ。

 夜影は黙って後ずさった。

 頼也が首にを振ったということは戻ってきてはいけないということ。

 才造は正気に戻っていない。

「夜影!」

「まだわからぬか!戻れぬのだ!」

「夜影に何をした!夜影、正気になれ!騙されるでない!!」

 今度は夜影が首を振った。

 主さえも恐ろしく感じたのだ。

 気が狂いそうだった。

「夜影ッ!」

「頭可笑しいんじゃないの…?」

 やっと言えた言葉はそれだった。

 才造も、主様も。

 どうかしてる。

「仕方ない。治してやらねばならぬようだ。」

 嫌な気配がした。

 虎太も頼也も立ち上がる。

 才造だ。

 夜影が硬直し動けなくなる。

 それを守るように虎太は夜影の傍に立ち身構えた。

 頼也の手には、その二人を逃す為に閃光が握られている。

 この一室の中心の降り立った才造に頼也は止めようと一歩を出したが主はそれを許さなかった。

 刀を引き抜き頼也の首に添える。

「変な気を起こす出ないわ。」

「あ…る、じ。」

 企んでいるのは此方の方だ。

 この首捨て、親友を救えるのであれば痛くはない。

 閃光を放つだけならば動かずともできる。

「夜影…浮気か…?それとも、わざとワシに追わせてるのか?」

 ゆらり、ゆらりと近付く才造に夜影は冷静になれと自身に言い聞かせる。

 薬を手に迫る才造に虎太は夜影の腕を掴んだ。

 こうなれば、誰の手も届かないところへ逃れるしかないのだ。

 頼也は刃先も気にせず閃光を放った。

 首から血が流れたが気にもしない。

 閃光に紛れて影の中に沈み込む。

 もう追うにも追えない影の中。

「頼也、逆ろうたな。」

「……ッ。」

 此処で自身さえも逃れてしまえばいいのではないか。

 そう判断した。

 どうせ鬼の居ぬ間になんとやら、戻れど忍隊十勇士は才造以外もう武雷にはいない。

 二度目の閃光を放って頼也はその場から姿を消した。

 忍装束を脱ぎ、盗賊の頃へと舞い戻る。

 赤き髪紐をほどいて、この目を覆い隠し、一つの目へ。

 武雷にいたはずの他の十勇士も支度を済ませ部下に黙って姿をそれぞれ眩ませた。

 伊鶴は着物を身に纏い、町へ紛れた。

 明朗は海へ走り去り、海斗は任務の最中でありながらそのまま姿を隠す。

 小助は質屋で働らくことにして、冬獅郎は雪国の吹雪に紛れ、鎌之助は出身の忍の里へ、三好は山の奥深く。

 主が才造を連れて戻れば部下が慌ただしくしていて、聞けばいつのまにか忽然と十勇士が姿を消しているのだと。

 才造を見るなり任務でいないのかと首を傾げていた。

 生真面目な伊鶴のことだから、と思い部屋に寄ってみれば置き手紙があった。

 それを広げると、何処に行くも告げないが武雷には暫く戻らないことを告げていた。

 途端、才造がその場で倒れ込んだことに舌打ちをした。

 もう効果が切れたのか、と。

 才造が目を覚ましたならばもう一度せねばならぬ、と取り敢えず布団に寝かせることにした。

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