第133話我が子話の行方

「して、夜影は嫌だったのか?書物には好んでおったように書かれてあったが。」

「そ、それとこれとは別…ですけど。」

 そっぽを向いて、それには答える。

 だが夜影もあの主が死してからはそのまま修行へと姿を眩ませていたわけで。

 修行で己を殺していたせいもあって急すぎる距離に追い付かなかった。

「才造は別なのだな。」

「そりゃ、旦那はね…。何年の付き合いだと思ってんの。」

 事は収まったかと頼也が様子を伺っているのに気付き、片目を閉じて手で払った。

 すると安堵したような顔をして引っ込んでいった。

「旦那…ということは、子はおるのか?」

「うんにゃ?」

 何を突然。

 子と言えば受け取った部下の子か、拾ったら

 子を育て放つくらいのことはある。

 だが、才造との間の真の子となると。

「才造は望んでおらぬのか?」

「どうだか。こちとらが望んじゃいないってのもあるけど、そもそもそんな暇なんざありゃしない。」

 仕事は山積みだ。

 休みなんて才造とは重ならない。

 夜だってそんな暇も隙も今はどうにも作れそうにない。

 たとえ産めても、しっかり子育てをできるような暇がないだろう。

 それでは親としてもならない。

 それに産んだのなら暫く自分が動けなくなる。

 長というこの位置では、否、そうでなくても自分という戦力が何れ程の影響があるかくらい自覚している。

「要らぬのか。」

「それとはちと違う。まぁ、いつかは…とは思っちゃいるし才造が欲してるなら色々考えるしさ。」

 本当に、それがいつになるか…。

 ただ本気なら此処を捨て離れて子作りと育児に時も身も注げば上等。

 それをしようものならば部下も、主様も、このお武家様も放ることになる。

 そんなことは当然できるはずもない。

「才造。」

「は。」

 何故今呼んだのだろうかと小首を傾げる。

 才造の方はどうせ盗み聞きくらいしておったのだろうが。

「才造はどうだ。欲しいか。子を。」

「当然。惚れた瞬間からそれは望んでおりましたとも。」

 それを真顔で発するとは。

 いっそ才造が望んでいるのは子だけではないのでは?

 そう感じるほどの素早い返答。

「だ、そうだ。」

「目が獣だよ…才造…。大体、主様が気にすることじゃないんじゃないの?」

 こういうところが嫌なのだと目で訴える。

 二人のことは二人で決めるし、一人のことも一人が定める。

 だから足を踏み入れてくれるな。

 この場合はちょいと才造が面倒なのだから。

「子の為できることは協力しようとな。」

「あっはは、戦は待っちゃくれないよ。」

 例外もあったが。

 近々戦の火が飛んできそうな気配がある。

 こんな時にこんな平和なことをやってる場合じゃない。

 それに、こちとらが動けないと知れば奴さんは確実に好機と確信して襲ってくる。

 そんな会話を立ち聞きしていた武雷の者があれやこれやと話しあいを始めてしまったことには気付かなかった。

 夜影という優秀な忍と、才造という腕のいい忍の血を受け継いだ子となれば優秀な忍になるのではないか。

 夜影と才造によって育てられればさその期待は大きい。

 その優秀な親子が揃えば、どうなるか。

 その子が一人と限らず二人と三人と居れば。

 戦力がお幅に上がったりの得が大きいのは当然のこと。

 才造の方がその気があるのだ。

「子作りさせ、育児に時を与えれば。」

「忍隊十勇士皆がそうできれば良いのだがな。」

「一先ずは、夜影と才造を。」

「才造の背を押すに限る。」

 嫌な話しである。

 夜影も才造も知らなんだ。

 ただこれを聞いていたのが部下の一人で、その決定に肯定の意を持ったが最後。

 それは主へと通り、頷き事は決定へ。

 頼也であったならば止めたろう。

 伊鶴であったならば知らせたろう。

 さて、如何に転ぶか。

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