第125話我がもの
夢の中であるのだと、どうしてだかはっきりとわかった。
目の前に忍が一匹、冷めた顔で此方を睨んでいる。
「あんたに何がわかる?」
その声は、真っ直ぐとこの耳を刺した。
責めるような、恨めかしいというような、吐き捨て方だ。
「武雷の為。梵丸様の為。はッ、ならあんたを殺した方が為になる。」
鼻で笑って、片手に手裏剣を構える。
体が動かない。
殺気が、ゆるりと歩を進めてくる。
「悪いけど、あんたより此処が長いんだ。だぁれも気付かなかった。誰も、何も、気付きやしなかった…。」
目前、刃が迫る。
夜風の冷たさが肌を通った。
忍の背景が、満月に変わる。
夢であるというのに、現実味を持って忍が笑った。
「なのに………、こちとらが中心に動く武雷の弱さに気付いた。誰もが、強さだと錯覚した、弱さに。」
乾いた声で笑いながら、壊れたように首を傾ける。
どこまでも不気味な雰囲気に、やはり苦手だと感じる。
「気付いて欲しくなかった。気付いて欲しく……無かったんだよ。」
早朝のこと、六郎は息を引き取った。
死因不明であり、少々騒ぎになったがやがてそれは静かになった。
敵が、六郎の死につけこんで奇襲をかけようと企むも、武雷の立ち直りの早さに実行に移すまでとはならなかった。
この妙な音の運びに、誰しもが妖の仕業だと考えた。
そして、誰一人、その妖が未だに武雷にいることに気付かぬまま、初陣は始まった。
「主の命令に一筋。邪魔する者は全て排除する。」
天下統一をこの目に刻む命令に従って、その一時はまだかと待ち構える。
誰であろうと、邪魔は許さない。
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