第118話忍が欲しい

「あにうえ!!」

 足音を立てながら幼い声が走ってくる。

 それにいち早く気付いたは夜影の耳。

 障子の傍に座っていた夜影は片手で静かに開けた。

 それとの間を丁度よく現れた声の主は満面の笑みを浮かべる。

「どうしたのだ?」

『あにうえ』と呼ばれたのは梵丸である。

 夜影は静かにまた障子を片手で閉めた。

「ぼくもしのびがほしいのだ!」

「夜影はやらぬぞ?」

「なんでだ!」

 蝶華が予想した通りの会話である。

 夜影はそれを思い出しながら、何故己ばかりを選びたがるんだと溜め息をつきそうになる。

「夜影は僕の忍だ!やらぬ!!」

 そう叫び合う。

 才造や頼也という腕のいい忍ならばいるというのに。

 何故…。

「才造も、頼也もやらぬぞ!」

「いじわるだ!」

「十勇陣はやらぬ!」

『十勇陣』ではなく『十勇士』だと訂正してやりたいが、黙っておく。

 らちが明かない言い合いだ。

 だが、確かにこの忍使いの武家に産まれたからには、己の忍というものを持っておく方がよいのは忍である夜影でも思う。

「よかげ!ぼくとあにうえどっちがよいか!」

「我が主は梵丸様と決まっておりますれば。」

「うぅー…。」

 そうとしか答えられない。

 不機嫌になる幼い顔に、菓子で御機嫌をはかろうか、としか策が浮かばなかった。

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