第116話魅了せよ

 桜吹雪の舞台、月に照らされる忍。

 白い長い髪を夜風に舞わせ褐色かっしょくの肌を魅せて、手裏剣をおうぎに変えませう。

 その黄色い瞳に魅せられながら、笛のを待ちわびる、赤の化粧で彩りて。

 その隣で黒の短き髪に猫耳を魅せて白い肌に、手裏剣を扇に変えまして。

 その赤と黒の瞳を魅せながら、太鼓の音を待ちわびた、赤の化粧さえ彩りて。

 笛と太鼓が奏でれば、扇に飾られる鈴が鳴った。

 くるりくるり、とゆるりと回れ、夜空を見上げて赤目花。

 くるくるり、とゆらりと回る、散り落ちた桜の欠片を見下ろして黄色き瞳。

 回れば白い髪は身に巻き付くように後を追う。

 舞われば黒の髪はゆらゆらりと揺れた。

 手を鳴らせ、鈴を鳴らせ、今宵こよい甘美かんび一時ひとときを。

 舞いに酔え、酔いしれて、無限の夜に笑え。

 二人は目を合わせふと笑う。

 片手を高らかに上げたならば、合図だとも知れずに何処かで誰かの息が絶える。

 お色気の術でその目をそらすことを許さずに。

 幻夢の術にさえかかれ。

 誰も彼の死には気付かないさ。

 やれ唄え、やれ舞い踊れ。

 振り向くべからず。

 貴方のお命頂戴する為に、その瞳を奪う為に。

 夜桜を味方につけて、月光さえも。

 影を落とした先には、はて誰が居たのだろうか。

「頼也。」

「影。」

 そろそろ頃合いだろう、二人は扇を両手に身を止める。

「「忍の時間だ。」」

 扇は手裏剣へと舞い戻る。

 血飛沫が飛んだ、血を浴びた。

 鮮やかに目を見開いて。

 首を飛ばせ、面影おもかげ散らせ、その息を止める為に。

 いざ、忍び参らん。


「お疲れさんっ!」

「あぁ。お疲れ。」

 拳を合わせて笑んだ、此処は赤い赤い舞台の上。

 目立つ方が何故タノシイのか、一度問われたことがある。

 簡単な話なのだ。

 悪趣味というやつなのだろう、夜影はただ人の目を見たいが為、その恐怖に染まるか、怒りに染まるか、鋭い目を探す為に。

 頼也はただ元々目立つ髪に目をしているだけでそれを利用してやるに過ぎない。

 それを利用して、己がわざわざ行かなくても殺すべき者は気付いて向かってくるだろう、それでいい。

 それで、いい。

 そして、同時に、潰れる命を眺めるのがタノシイ。

 人が、あんなに己をいたぶった人というモノが、いとも容易く殺せるのだ。

 力に溺れているのだろうか、何に溺れているのだろうか。

 自覚があるのにも関わらず、それでもいとみなす。

 夜影という危ういモノを野に放してやるつもりはない、と言った初の主の通りに夜影は収まっている。

 頼也というモノもまた、夜影につられて。

 きっと、放てばもう制御は出来まい。

 モノというのは、大きな力を持てば持つほどに制御が利かなくなるものである。

 そして、力に溺れ酔いしれて、ただ己の見たいもの以外は何も見えなくなる。

 頼也が夜影を好み、また武雷を居心地良いとしたように、夜影が武雷の者の目を好んだように、好んだものでしかモノの視界には入ることはなく、モノを制御してやることは出来ない。

 好む方向にも関係がある。

 削除することを好むか、所有物とすることを好むか。

 それによっては、また異なってしまう。

 要は、モノの好んだ害になれば終わり、モノの好んだ得になれば良いという話。

「残り酒でもどう?」

「血混ざり酒か。」

 花見と洒落しゃれこんで、さかずきを当て合って乾杯だと笑んだ。

 見上げた夜桜に、目が細められる。

「明日帰ろうね。」

「早朝にな。」

 これがまっこと、タノシイのだ。

 愉快、愉快と一等。

 静かなる宴を、さぁ、今夜は……




 月が沈むまでゆるりと。

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