第112話真は此処に在り

 頼也が失せてからその後、忍隊の空気は悪かった。

 常に夜影は怒りを浮かべた目で事にあたり、才造も十勇士から裏切り者が現れたということとそれが頼也であったことに強い殺意を抱える。

 殺伐とした空気を感じ取ったのか、梵丸は夜影を心配そうな顔で見上げた。

「だいじょうぶなのか?」

「何がです?」

「頼也殿は、」

 その口を塞いで、首を振った。

 夜影はその真っ直ぐな目を見つめる。

 手を退かせば梵丸は口を閉じて頷いた。

 我が主は、気付いている。

 そう夜影は確信したうえで、目で何も言わないで欲しいと訴えた。

 それに主は応えたのだ。

 無意識にそうやりとりしたあとで、嗚呼、いつの間に目だけで会話が出来るようになったのかと成長に驚いた。

 夜影は報告をした部下に違和感を抱いていたのも事実。

 新入りであったのだから、気配についてはわからない。

 夜影は誰にも知られぬよう、敵に忍び込み情報を得た。

 そして、答えを定めた。

 部下に近付き、床を強く踏み付け大きな音で全ての目を集めた。

「命じる。此処で死ね。」

「長…?」

「あんたに死ぬ許可と生きる事を禁じるめいを与える。今すぐ、此処で死ね。」

 その部下を蹴り倒し、見下す。

 さっさと自害しろ、とばかりに。

 部下は睨み、逃げへと転じようとしたがそれは許されなかった。

「長の命令が聞こえなかった?死ね、と命じた筈だけれど。」

 踏み付けながら、夜影はどこまでも冷酷に。

 そんな夜影の豹変に才造が動く。

「夜影、血迷ったか。」

「黙れ。妨害するのなら縛るよ。」

 才造に目を向け、そう吐き捨てる。

 その異常な変化にみなが凍り付いた。

「死ねないというのなら、殺してあげようか?」

 舌舐めずりをして、そう言い放つ夜影は殺気を強めた。

「長から離れとけ!」

 殺気に押された部下が苦しみだすのに小助が気付いて背を押しながら言う。

 十勇士であろうとこの殺気には勝てない。

 浅い息を苦しげに吐き出しながら、殺気に苦痛を与えられ続けるその部下に、夜影はそのまま首を踏み付けた。

「こちとらを、まさか騙せるとでも?」

 踏み付け殺気を強めたせいで、もうその部下に意識は無かった。

「それくらいにしてくれないか?やり過ぎだ、影。」

 頼也の声に夜影は殺気も解いて、振り返る。

 代わりに、他の者は身構えた。

「おかえりぃ。」

 頼也にゆるりと近付き、また蹴るのかと誰しもが思った。

 だが、それどころか抱き締めている。

「頼也を使われたのが許せなくてついつい。」

「その割りにはがっつり遠慮なく蹴ったくせに。」

「そりゃ演技は本気でやんないと。」

 その会話に脱力する部下と十勇士の手から武器が転がり落ちた。

 まさか、あれが全て演技であったなんて思いもしなかったのだ。

「敵を騙すなら先ずは味方からっていうでしょー。ま、若様は気付いてたんだけどね。」

「あの幼さで!?」

「だから黙っててねってお願いしといた。」

 顔を埋めて甘える夜影を片手で撫でながら、頼也は驚きを隠せなかった。

 何故、わかるのかがわからなかったのだ。

 夜影があの時見据えてきた時に、演技をするということは互いに会話していた。

 頼也は出ていけと言われて直ぐに身を潜めて待っていたのだが、夜影の殺気は外にまで届いていたものだから、これは流石にと思い早めに駆け付けたのだった。

「まだ痛い。」

「だから癒してあげようと。」

「確かに癒されてはいるが、そうじゃなく蹴った箇所を物理的に癒して欲しい。」

「精神的に、で我慢して?」

 こんな仲の良さを公開したのはこれで初めてである。

 才造の目が鋭いのをまた部下らは察した。

「気絶した奴はどうする?」

「嗚呼、解体して箱に詰めてやっこさんに贈ろうかな、と。」

「容赦ないな。」

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