第111話それを疑え
「うん?頼也がなんだって?」
明らかに怒りを含めた声で夜影が振り返った。
それに怯むも、黙っていたら無言の威圧で精神的に殺される。
「頼也さんが、裏切りました。」
部下が報告した内容に、夜影は鼻で笑った。
そこで部下は夜影の怒りの矛先が此方に向いていないのに気付く。
「詳しく。」
夜影の催促に、見聞きし探ったことをそのままに報告する。
忍隊の情報を売り、敵に従う様があったのだと。
そして、特に夜影の情報を明かしていたのだと。
「ふぅん。頼也が、ねぇ…。」
やはり声には怒りが含まれている。
「戻った。俺がなんだ?」
己の名が偶然聞こえたのであろう、任務から戻った頼也が首を傾げた。
「いいよ、下がりな。」
「はっ。」
部下を下げておいてから、夜影は頼也の目を見据えた。
それに頼也は目を細めて、口を閉じる。
暫くの間、妙な静けさがこの部屋を満たした。
「頼也、一応問わせてもらうけど、奴さんに情報を売るってことしてない?」
「俺が、か?」
「さっきそういう報告を受けた。正直、裏切りはしないとは思うし十勇士の三番手ともあろう忍がそんな早死にしたがるような事をやってはいないと思うけど、ねぇ?一応本人の口から否を聞いときたくてね。で?」
一息にそう述べて怒りを含めた目のまま小首を傾げる。
さっさと答えろ、といわんばかりだ。
頼也は一つ溜め息をついて夜影を真っ直ぐと見た。
「証拠は?」
「目撃したらしい。見聞き探った結果、の報告だからね。」
「なら答えるまでもない。」
頼也の言葉に夜影は立ち上がる。
目の前まで来て、その手で頼也の頬を打った。
その音に気付いた部下は振り向くが、いかんせん扉が閉まっているので見ることはできなんだ。
「あんたそれでも十勇士の一人!?」
夜影の怒鳴り声に部下は、やはり裏切りなのだと確信した。
顔を見合わせて、さて、どうなることやらと身構える部下たちを知らず夜影は頼也を睨んでいた。
「十勇士だからなんだ。それは関係ない。」
冷めた声に、夜影はふと初めての喧嘩だと気付く。
「どう処理つけるつもり?」
「さぁな。」
「歯ァくいしばんな…!」
夜影は容赦なく頼也に回し蹴りをくらわせた。
その勢いは凄まじく扉を破り壁まで吹っ飛ばした。
膝をたてる頼也に、音もなく夜影は歩を進める。
舌打ちをする頼也に構わず夜影は見下した目で言い放つ。
「出て行け。」
その殺気を含んだ声に周囲の部下の息が詰まった。
夜影の殺気は人を殺す、と噂があるがこれは真であると思わざるを得ない。
頼也はそのまま姿を消した。
「始末せず、良いので?」
「都合が悪い。今は始末出来ないのを知ってて狙ったんだろうね。」
怒りを捨てぬまま、夜影は部屋へと戻った。
壊れた扉はそのままに、長の恐ろしさを教えてくる。
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