第109話違いを知れ恋の種
珍しく才造と頼也が二人で鍛錬を組んでいた。
「ワシが任務に出ていた間、何をしていた。」
「言うほどのことでもない。」
「夜影と何をしていたか答えろ。」
「大した事はしていない。」
ずっとこの攻防戦を続けているが、いかんせんこの二人、表情を作らない。
遠目では何を話しているのやら、察することは不可能に近かった。
「何故そうも夜影絡みを俺に聞く。才造には関係無い話だろう。」
「だからなんだ。いいから答えろ。」
頼也がはたと動きを止めたのに、才造も攻防戦を止めにする。
頼也は溜め息をついて長い髪を風になびかせた。
「一つ教えてやろう。俺はお前と違う。影に恋愛感情なぞ覚えん。」
才造の胸倉を掴んでぐいと顔を近付け睨む。
「そのふざけた感情で俺と影の関係を邪魔しようものならば俺はお前の恋路とやらを妨害してやる。」
手を離して才造に背を向け立ち去ろうとする頼也に才造は目を細めた。
なにせ、言い方が悪い。
『関係を邪魔するな』と言うのは如何なものか。
「邪魔、だと?」
「そんなに渋ることがあるのなら、いっそ俺が影を嫁にしてもいいんだぞ。」
「頼也ッ!」
怒鳴る才造に振り返り呆れた顔を浮かべる。
「何をしてたか教えてやろう。あの日の夜は、共寝した。」
それに才造が噛み付くことを知っていながらそう明かした頼也に、案の定才造は突進、胸倉を掴んだ。
「落ち着け。影も俺も恋愛には疎い。さっさと距離を縮めてやれ。共寝くらい心許せば容易いぞ。」
才造の手を解きながらそう言えば才造の手の力が緩んだ。
遠目で部下は喧嘩か?と誤解をするくらいだが、内容がくだらない。
「なら制限時間を設けてやろう。主が次へと代わる前に影と付き合わなければ俺が影を嫁にする。」
「正気か?」
「だから、俺はお前と違うと言っている。だいたい、相手は長だぞ?正気かどうかを問うべきはお前のほうだろう。」
才造が唸り、手を降ろす。
頼也からしても正直鬱陶しい。
さっさと告ればいいものを。
というか距離を縮めろ、とさえ思う。
手伝ってやる気もないが、こうも害されるのであればさっさとくっつけてしまいたくもなる。
夜影は頼也にとって親しき仲であって恋愛対象ではない。
嫁にする、というのも冗談だが無理ではないだろう。
「最悪、押してだめなら押し倒せ。」
「普通は、引いてみろ、というんじゃなかったか?」
「知らない。」
どうなることやら。
「夜の字!頼也と付き合ってんの?」
「要らぬ噂がたったかな。頼也に聞けば?」
「頼の字!付き合ってんの?」
「嫁にするつもりだったなら既に嫁にしている頃合いだろう。」
頼也の答えに夜影は手元の物を落とす。
そして勢いよく振り返った。
「嫁、って…。」
「まぁ、嫁に行く先がないなら俺が貰ってやろう。」
「あんたそんな冗談言うようになったとか聞いてないんだけど。」
頼也は涼しい顔を一切変えない。
ただ、敢えて才造については言わないでおく。
奥では才造が唸りながらも悩んでいるのを知っておきながら。
「まぁ、確かに頼也が旦那さんなら気楽だろうね。」
頼也は咄嗟に才造の居る方を見たが才造の目は机に向かっていたので、聞こえてはいるのだろうが遠慮をしておこうと思う。
「愛してはやれないが。」
「じゃぁ、無理。愛してくれないと死んじゃうわ。」
笑う夜影は冗談のように口にする。
「愛されたいか?」
「そりゃ、愛されたいじゃない?結婚までして愛されないってそりゃないよ。」
ほら、才造が適任だろうに。
そう溜め息をつく。
「ちなみに、十勇士の中に旦那にしてみたい奴はいるか?」
「えー?そうさねぇ。んー、耳貸して?」
恥じるようなことでもないとは思いつつ耳を近付ける。
「才造。」
それだけ言って離れた。
「本人には言わないでね。あ、最終手段で頼也も有り。」
「なら、其奴が無理だったら来い。」
「あっはは、無理だったら、ね。」
どこまでも冗談めいた言い方だ。
それでも、才造と答えた時だけは違った。
これは面白い。
「本人に言っておいてやろうか?」
「頼也、非番も有給も無しにされたい?」
「遠慮しておこう。」
ほら、才造。
お前が嫁にしてやらないと俺が嫁にすることになるぞ。
振り返れば才造の目と合う。
睨むような目に、教えてやらないでおこうと決めた。
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