第107話幼き目には御見通し

「若様、如何なされましたか?」

「らいやとよかげはなかがよいのだな!」

「は?」

 才造の威圧的な声と、我が主からの言葉、どちらに夜影は肩を跳ねさせたのだろうか。

 夜影は冷静を装う。

「仲が良いわけでは、」

「きのうはともに、」

「若様、八つ時ですよ。菓子をお持ち致しましょうか?」

 遮ってそう提案すれば嬉しそうに頷いた。

 冷や汗をかいた。

 さて、若様が知っているのはどちらだか。

 共に寝たことか、それともただ会話をしている様か。

 前者ならとんでもない。

「おい、夜影。『ともに』なんだ?『きのう』何をしていた?」

 肩を後ろから掴まれ耳元で威圧的な囁きが問い掛けてくる。

「……、あんたにゃ関係ないでしょうが。」

 これ以上はやめて欲しい。

 折角居心地が良い仲なのだから、壊されてはたまったもんじゃない。

 才造の手を払いのけて、若様への和菓子を取りに向かった。

 才造だからとて、明かしてはやれない。


「頼也、昨日の夕か夜に夜影と何かあったのか?」

 すれ違いざまに問いかければ、頼也は目だけを此方に向けて溜め息をつく。

「影に聞けばいい。俺に聞くな。」

「夜影は答えなかった。」

「なら諦めればいい話だ。影が話したがらないということは、俺も控えた方がいいということだろう。」

 そう返してさっさと立ち去ろうとするのでその腕を掴んで引き止める。

 まさか、既に夜影を頼也に?

 そう思うとどうも許せず。

「話せない事をしたということか?」

「わざわざ話す事でもない、というだけだ。」

 目と目が合い、互いに睨み合う。

 そして双方、苦無すら片手に忍ばせる。

「はいはい!そこまで!苦無はしまう!頼也、ちっと鍛錬に付き合ってくんない?術を試したい。」

「応。」

 夜影が間に現れてこの手を解き、さらには頼也の背中を押して去っていく。

 才造の手から苦無が消えるのに少々かかった。


「妖術についてちっと試したんだけど、そうみたい。」

「そうか。何処まで試せたんだ?」

「妖術と忍術を組み合わせた混術と、結界術と呪術、魔術。取り敢えず術は全種試した。」

 頼也は暫し黙り込んで、夜影の発言に驚いていた。

 まさか、手前で立ち止まるどころか超越すことを既にやっていたとは。

 流石、『日ノ本一』と言われるだけはある。

 可能な事、尚且つ背負うモノに害はないとわかっている事については先に手を出し積極的に進む姿勢。

「…で、結局は?」

「結界術、魔術、呪術に関しては妖術で事足りると判断、というか色々な都合的に。」

 夜影と武器を持たずの攻防戦を繰り広げながら控えた声でそう会話を続けた。

「頼也のお陰で色々と気に引っ掛かってた謎は解決したよ。」

「そうか。それは良かった。」

「けど、才造と若様が頼也とこちとらの仲に目を光らせてる。」

「あぁ、そうだな。」

 これには二人して溜め息。

 一旦攻防戦をやめて、どうしたものかと空を見上げた。

 若様は兎も角として、何故、才造が首を突っ込もうとするのかいまいちわからない。

「若様、多分見てたんだよ。一緒に寝てるとこか、もしくは会話してるとこ。」

「後者ならば問題ないんだが…。」

「一緒に仲良く寝てました、なぁんてバレたら絶対うるさくなるよ。」

 苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた。

 若様はまだ幼い。

 だから事がわからないのは好都合だ。

 しかし、事がわからない故にその口を他者へ開きかねない。

 そうなれば誤魔化しが利くものか。

 別にただ寝ていただけではあるものの、色恋沙汰という見当違いも甚だしい話へ持っていかれて騒がれてはたまったもんじゃない。

「見てないとしても、勘づかれる行動があったのかもしれないし…まぁ、自覚ないんだけど。」

「それはないだろう。勘づいたのだとしたら、それは主が鋭いだけだ。」

 唸りながら攻防戦を再開する。


「主、頼也と夜影が何故仲が良いと?」

「ともにねておったからだ!」

「なっ!?」

 此処から噂が流れ出すのは早かった。

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