第106話隠れた仲
「影。」
十勇士三番手である
片手を伸ばせば頼也の片手が伸ばされ、手が触れ合った。
「隙を突けそう?」
「問題ない。」
頼也は夜影を『長』ではなく『影』と呼ぶ。
頼也と夜影は何かと馬が合う為、夜影としては才造より頼也の方が都合が良い。
忍隊では才造と夜影ばかりが注目されるが実は才造と違って頼也は会って直ぐに夜影と意気投合、陰で二人きりになったところでぐっと距離を縮め主と夜影が和解するまでに一度や二度、共寝している。
才造と頼也は仲が良いわけでも悪いわけでもなく、そもそもあまり顔を合わせない。
頼也と夜影の仲を知る者は忍隊にもいないところがまた、忍らしい。
夜影の手を握り上へ一気に引き上げると、脱出を試みる。
「若様に詫びないとね…あと頼也に恩賞。」
「それは過ぎた礼だな。影、今夜任務は無いな?」
「無いねぇ。」
「俺の部屋来るか?」
「ん、そうしようかね。」
ふわりと笑んだままにそう夜影は頷きながら、防具を外した。
そして、気配を察知していつもの作られた笑みへと表情を変えた。
それに気付いた頼也はそそくさと窓から部屋を出た。
誰かに見られぬように。
「若様?」
「よかげ!もどったか!」
「申し訳御座いません。お待たせ致しました。」
こっそりと頼也は舌打ちをしておく。
頼也は女が苦手で、それが絡んだ任務は頑なに拒否する。
だが、夜影は別。
中性的であり女みたいに媚を売りに来るような鬱陶しさもない夜影だからこそ親しくなれた。
頼也も口説いたりというのもしないし、夜影とは親友以上恋人未満くらいとでもいおうか。
恋愛感情を覚えたりそういった好意も抱かないので、互いにとてもやりやすい相手である。
強さが才造を下回ってはいるものの頼也も中々腕がたつ。
「影、その耳と尻尾は妖のものだろう。あの忍術とも見えない術は妖術ではないか?」
巻物などを広げて、難しい顔をする頼也の膝の間に収まっている夜影はそれを眺めている。
「妖術、ねぇ。」
「知らずとなんとなくで使えているのだろうし、問題は無さそうだな。」
「妖が長やってて大丈夫?」
「無自覚の時点で既にどうかと思うが、まぁ、構わないと思う。」
耳を撫でられ、夜影はご機嫌だ。
巻物に書かれる妖術についてのものは確かに夜影は驚くほどに理解できてしまった。
それどころか読めぬはずの字まで難無くと。
懐かしささえあった。
「あんがとね。巻物、大事なのに。」
「いいや、気にすることは無い。俺も気になっていた。」
巻物を片付け、布団を敷くと二人で潜り込む。
これくらい、普通の仲だがこれを才造が見たとしたらどう思うであろうか。
隠れた仲は、忍んだままに。
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