第105話監禁中により忍べず

 連れてこられたのが牢でなかっただけまだいい。

 小部屋というのは、忍にしては扱いが丁寧ではなかろうか。

 窓から見える外は此処が若干地下にあるのが伺える。

 足と陽の光しか見えんぞ。

 烏には既に六郎様へ文を持って行かせた。

 此方に仕えるよう言われ拒めば監禁、だが逃げず情報を探る所存、必要であれば烏を、という三つを伝えた。

 扉を開ければ直ぐそこに見張り兵が立っている。

「何用だ。」

「どーも、ちょいと水くんない?出ていいのなら己で行くけど。」

「大人しく待っておけ。」

「ありがとさん。」

 そして閉められる。

 うん、なんというか、暇は嫌いだしこうも何もさせてくれないというのは辛い。

 武器の手入れをしていたら怒られたし。

 ったく、忍に優しくても、こちとらに優しくないんだよねぇ。

「水だ。」

「ありがとさん、あー、何かすることありません?」

 答えず閉められる扉。

 酷くない?

 せめて、何か言おうよ。

 水を手に取って、溜め息。

 そりゃそうだ。

 何処ぞの武士を引き入れたくて監禁するのはまだわかる。

 それなのによりにもよって忍。

 それの見張りに駆り出されたら、ねぇ?

「どうせなら、書類を持ち歩いてりゃ良かったよ。こんなにやることない方が暴れたくなるって。」

 うんと伸びをして、寝転がった。

 頷けば解放、か。

 甘いねぇ。

 頷いて大人しく仕えると思う?

 裏切りは?

 寝返ったと見せかけて暗殺、とか忍だったら考えるでしょうよ。

「うん、うん、そうね。仕事が無けりゃ作ればいい。」

 身を起こした瞬間、扉が開けられた。

 おっと、聞かれたかも。

「何を作るって?」

「さぁて、何を作りましょうかね?」

 愛想よく返答するも、溜め息。

「さっさと頷けよ。」

「嫌だね。それと、暴れられたく無かったら、仕事寄越しな。暇。」

「その仕事をやるから仕えろ。」

「寝言は寝て言え。」

「そっくりそのまま返すぜ。監禁されながら仕事ってお前は頭可笑しいんじゃねぇのか?」

「それを一部切り取ってそっくりそのままお返しするわ。」

 トントン拍子な会話。

 即答のし合い。

 こんなに人間様との会話が滑るように進むことはなかなかないだろう。

 大した会話じゃないけど。

「ったく、これだから武雷以外のお武家様は。」

「斬られてぇのか。」

「返り討ちだね。あの世への道案内なら任せてよ。」

「お前が言うと冗談じゃねぇな。つぅか仕事ってなんだよ仕事って。」

「なんでもいいよ。書類処理、家事全般、忍事、なんでもかかってこい。」

「お前、何でも屋かよ。」

 呆れられるけど、これマジでやってるからね?

 武雷じゃ毎日やってるよ?

「あと、仕事中毒忍であって、戦闘狂忍ではないから。戦闘狂だったらあの時点で暴れてる。」

 水を投げつけ笑ってやる。

 怒りが顔を上げる。

「てめぇ、調子に乗るなよ。」

「いいや、調子に乗らせてもらうね!」

 狐のように笑う夜影にいい加減縛り付けて痛め付けわからせてやろうかと思い始めたのであった。

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