第104話行方は何処ぞ

 伝説の忍に捕まり、連れて行かれたのは草然だった。

 乱暴に畳の上に放られたが、かろうじて片手を着き、顔面強打は免れた。

「来たか。雑ですまんのぅ。」

 夜影の警戒心、そして敵対心が強く相手を睨む。

 武器こそ手にはしないが、威嚇するが如くその鋭い目と姿勢に流石に参った。

「そう怒るな。我が忍が乱暴だったのは謝る。お前という忍に用があったのだ。」

 夜影は控えめな殺気を放ちつつも、無言を貫く。

 だいたい、用があるのなら手前から来るか、文を送るか何かしらの他の手段を取るのが常識ではないか。

 何故用のある相手を無理矢理に連れてくるのだ。

 警戒して当然だろう。

 それも、伝説の忍を使ってのことだ。

 ふざけるのも大概にして欲しい。

「おぉ、戦闘狂忍、来たのか!」

 この声は、奥州の!

 なるほど、草然と奥州は同盟を結んでいるのか。

 なら改めよう。

 奥州には色々と今後も用がある。

 拒まれては困る。

 威嚇から姿勢を変えて、正座をする。

「奥州とわかった途端に態度を変えよったわい。何かこの忍とあるのか?」

「さぁな。あるなら、俺じゃなく俺の部下だろうなァ。」

 当前だ。

 この大っ嫌いな奥州の大将に何故態度を改めねばならぬ。

 というかこの様子だと近くにあのお人様はいないようだね。

 残念だ。

「用件は?可能ならば短く簡潔にまとめて頂きたい。」

 伝説の忍の手がこの片腕を掴んでいる以上は、下手に逃走なぞ狙っては危うい。

 まぁ、逃走したのだとしてもきっと直ぐに捕まってまた乱暴に扱われるだけだ。

「生意気な忍だなァ、相変わらず。」

 伝説の忍の手に僅か力が入ったのに目を少しだけ向けてから、その手の甲を片手で軽く引っ掻く。

 するとふっと力が抜けた。

 気に触れないでよ、折れちゃう。

「で?」

 朝日を拝む前に帰りたい。

 早く帰してくれるんならいいけど、こうも乱暴に連れてこられると六郎様が…なんという面倒臭さだ。

「簡単な話だ。アンタ、此方に仕えろ。」

「は、ご冗談を。」

「冗談?違ぇよ。お前は自分の腕に自覚が無いのか?」

 少なくとも腕に自信があるとは言えないだろう、そこに伝説の忍がいるというのに。

 それこそ冗談。

「我が主を捨て、此方に?笑えない冗談だね。お断り致しますよ。」

 またその手に力を入れるものだから、軽く叩きながらいっそ離してはくれまいかと思う。

「そうじゃろうな。武雷の忍は忠義が熱い。」

「そりゃどーも。」

「だからといって、諦める訳には行かねぇんだ。頷くまで返さねぇぞ。」

 途端に伝説の忍に担ぎ上げられる。

 いやいやいやいや!!

 冗談でしょ!

 なんだろう、こちとら色んなお人様に担がれるんですけど。

「降ろせぇ!!帰らせろぉ!!若様が待ってんだから!!」

 本音は此方。

 六郎様の用事が済んだら拗ねながらも待つ我が主の元へ直行する予定だった、のに!!!

「暴れんじゃねぇ。猫が。」

「可笑しいよねぇ!?」

 くそ、ビクともしないぞ此奴。

 確か才造もこんな感じだった。

 力負けか…っ。

 苦無を握り締めて、伝説の忍を刺してやろうとするもその手首を別の忍に捕らわれる。

「大人しくしろ。」

「大人しくお利口さんにして欲しけりゃせめてもうちっと別の扱い方してよ!?何、担ぎ上げるって!?こちとら荷物かい!!」

 突っ込みを入れる他ない。

 すると前へ体が持ってかれ、え?と思えばお姫様抱っこに切り替えられた。

「は?え、なに、これ。は?」

 ふぅ、と短い溜め息をつかれる。

 溜め息つきたいのはこちとらだっての!

「お馬鹿さん……。」

 もうさっきのままの方が良かったかもしれない。

 妙に恥ずかしい。

 扱いが可笑しいよぉ…。

 両手で顔を覆って小さく唸る。

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