第103話伝説の襲来
「ふむ、雑賀衆という手があったか。」
「あんた様方が戦を大きくし過ぎたんだよ。蚊帳の外にゃ使える手が転がりっぱなし。雑賀衆もそれの一つだよ。」
夜影はそう呆れながらも言いつつ、気配に気付いた。
招かれざる客には帰って貰わねば。
「六郎様、東田様の元へお戻り下さい。冷えますよ。」
「うむ。馬を任せたぞ。」
「御意に。」
夜影は馬の手綱を木の枝に投げ、重しで回し、括りつけた。
六郎の背が扉の向こうに消えるのを確認した。
そしてその瞬間に草木の陰に忍んでいる敵忍を蹴り倒し、その腕に刀を刺した。
「ったく、これだからいけない。お武家様の格好をしてちゃぁ、舐められちゃうわ。」
笑んだがその目を見開いて揺れる瞳は僅かに怒りを見せる。
唸る敵忍の目が、一瞬笑んだか。
夜影の背後、気配も無しに現れた存在。
それに目を向け苦無を手に捉えた時、首に忍刀を添えられ、身動きが取れなくなった。
舌打ちをするしかない。
その舌打ちに馬が気付き蹄を鳴らし威嚇をするが此処では意味を成さない。
囲まれたか…。
殺そうとはしないということは、目的は情報か?
「何をお望みで?」
囁くように其奴に問い掛けてやる。
喋らない、か。
気配に気付かなかった、そしてこの感覚。
「さては…あんた、伝説の忍だね?」
やはり答えないが、刃先が首に当たった。
僅かに血が浮かぶ。
我が身が可愛くて抵抗しない忍が何処にいる?
刀を手放し前へ身を傾けさらに地を蹴って其奴から離れる。
首が切れたが大した傷ではない。
飛苦無を馬の手綱に飛ばし、手綱を切れば馬はこれを待っていたかのように突進してきた。
それを避けた其奴を無視して馬は夜影へ突進するが、夜影は跳んでその馬に乗った。
馬はそのまま六郎がいる小屋まで突進。
入口手前でやっと止まり、その馬の蹄の音に驚いた六郎が顔を出した。
「な、何があった!?」
「伝説の忍ですよ。お陰で、刀を失いました。」
馬から飛び降り、着物についた砂埃を払う。
その後に東田が顔を出した。
「忍?」
「何が目的かはわかりませぬが、まだ近くに潜んでいるでしょう。」
夜影は東田が近くになるとすぐに切り替える。
それがまた自然過ぎる。
「なるほど。六郎殿、代役とはいえ忍を連れてくるとはな。」
「何を、」
「よい。貴殿、忍だな?伝説の忍を相手に一刀とその傷一つで済むわけがあるまい。」
夜影は爽やかな笑みを浮かべつつも、無言を持った。
肯定も否定もしない。
「それで済んだということは、日ノ本一の戦忍であったから、であろうに。」
「東田殿、これは、」
「なに、怒っているわけではない。武雷らしいではないか。だが、これは問題だな。」
夜影は顔を背け、馬の頬を撫でた。
髪の色も着物姿も、影が一瞬にして夜影を元の姿に戻す。
「伝説の忍が我らを敵対しておるということは草然は敵であるということ。」
夜影は首の傷に手をやり、血を拭うと目を細める。
「本当に、敵視?」
夜影の呟きに、二人が注目した。
「彼奴、殺意も無かった…。何のつもり?情報なら素早く奪えばいいものを。拉致なら無力化すればいいものを。何故?」
夜影がただ疑問を呟いてしまいつつ思考を深めておるだけであったが、二人はそれが大きな問題であることから黙り込んで夜影を凝視している。
それにはたと気付いた夜影は、口を抑えた。
「申し訳、」
「なら、お前は何とする?」
東田の言葉に、耳が動いた。
「それは、確かめてみなければ、」
夜影が気付いた。
気配は無いが、来た!と感じた。
しかし、それでは遅い。
両手首を後ろで捕まれ、口を塞がれる。
一瞬だ。
その一瞬が大きい。
「夜影!」
そのまま風が唸り声を上げながら、二人はそのまま消えていった。
「くッ!夜影をどうするつもりだ!」
「どうするもこうするも、夜影ほどの忍だぞ?狙われても可笑しくない!人質としては使えねぇがな!」
その言葉に振り返る。
どういう意味だ?
「お前の忍は、脅しが効かねぇ。大人しく従わねぇ。恐怖さえ抱かねぇ。いざとなれば、命を捨てて抗う。そんな奴を人質に出来るか?」
溜め息をついて小屋に戻るよう六郎の背を押す。
取り敢えずは、中に入ってから考えねば。
いくら犬のように吠えても、事は進まぬ。
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