第102話策を取れ

「夜影は戦をどう見極めておる?」

 六郎に同行しつつ、木の上でそれを聞いた。

「今更だねぇ。」

「今更?」

「うんにゃ、此方の話。そうさねぇ、そりゃ蚊帳の外のお話?それとも内?」

 夜影は木から飛び降り、音も立てずに六郎の背後に着地する。

 振り返ればそこに着物姿の夜影が立っていた。

「それは重要か?」

「戦ってのはさ、大きくなるほど蚊帳の外の奴の方が見極めが利くのさ。」

 夜影は指で苦無を回す。

 意地悪そうな笑み、そしていつもと違う明るい茶髪を結んでいる。

 武家の者の代役として引っ張って来たのだが、まさかそんな明るい変装をするとは思わなんだ。

「おや、此方は?」

「うむ、代役だ。すまぬな。」

 その目が不愉快を訴えている。

 夜影はそれでも爽やかな笑みを浮かべながら一礼した。

「旦那方には迷惑でしょうから、付き添い程度ですよ。では、席を外させて頂きます。」

 夜影の声はまたいつもと違って低く渋い男らしい声になっていた。

 それに内心驚きつつも頷いた。

「待て、先程の会話から察するに、軍師ではなかろうな?」

「まさか。軍師であるならば、」

「策士なのに間違いは無い。入れ。貴殿の話も聞こう。」

 そう言われれば断れない。

 ふぅ、と息をついてから退出を止め、そこに座った。

 その堂々たる様、妙にある貫禄が相手の眉をひそませる。

 何か、大将や隊長などの類いであろうくらいには、六郎より慣れていそうだと思える。

 爽やかな笑みのくせに、目だけは笑んでいない。

「さて、家和をどう討つかだ。」

「うむ。だが、東田殿と同盟を結んでおる石居殿は家和殿と同盟を組んでおろう?」

「それで我らは手が出せなんだ。しかし、武雷が手を出せばきっと我らは…。」

 夜影を見れば、将棋や紙などを用意している最中であった。

「何をしておる?」

「此処に座った以上は、旦那方のお役に立たなければなりませんからねぇ。」

 その言葉に、相手が食いついた。

 目を夜影に睨むように向ける。

「何か、策があるのか?」

「雑賀衆をご存知でしょうか?手が出せないのであれば、手を出させれば良いのです。第三者という存在に、ね。」

 紙を広げて指先がと示した場所は、雑賀衆の拠点。

 普通、この拠点については誰もが知る情報ではない。

「何故、貴殿が知っておる?」

「あれとは少々仲が良いのですよ。ですが、仕事は仕事。契約と報酬は必要でしょう。」

 六郎でさえ、知らない。

 偽りなのであれば当たり前だが、もし真なればいつの間に?

「雑賀衆か…。」

 勿論、夜影は雑賀衆と相手が過去に戦で刃を交えているという事は知っておる。

 だがそれは、気にすることではないのだ。

 炎上家が契約を難しく思うのであれば、武雷家が契約すれば良い。

 それに、その時の雑賀衆は契約で動いただけであって、雑賀衆自体の意志ではない。

 雑賀衆もそれについては、炎上家を敵視しておるわけでもないとはっきりしておる。

「ただ重要な点は、雑賀衆を雇うのに充分な強さであるか否かを認めて貰わなければ話にならない、ということ。」

「貴殿が行けば早かろう。」

 そう素早く返され夜影は溜め息をついた。

「この話は明日に致しましょう。」

 立ち上がり、夜影は一礼して外へ出た。

 もう気付けば陽は沈みきっている。

「これは気付かなかった。そうか、では、明日に。」


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