第99話結果はさて

 忍刀を掴んでゆらりと立ち上がる。

「……ッ!」

 あぁ、驚きと残念そうな顔を。

 夜影は猫のように笑んだ。

 昇給させてやんない。

 絶対に。

 夜影は覆面を降ろして動きを鈍らせている才造の腕に噛み付いた。

 此方にだって毒はあるんだよ。

 振りほどかれて後方に下がり、舌舐めずりをする。

「確かに毒は効いたよ。」

 吐き気も収まり、身の重さは消え、体は新たな毒を受け入れた。

 そして、吸収し、己の毒とした。

 才造の殺気が一気に刺しにくる。

 霧の中でも見ようとすれば見える距離。

 腕が鈍っても解毒薬が間に合うだろう。

 此処は一気にその戦意を喪失させる!!

「お色気の術!」

 才造の動きが止まった。

 目を細めて眉をひそませる。

 嗚呼、毒より効いてるね、これ。

 動きが止まったところで、いや待て。

 才造の目色が変わった。

 本気が変わったわけじゃない。

 折れてない方の腕を掴まれ押し倒される。

「あんた、期待を通り越さないでくれる?」

「何のことだ?」

「破廉恥ッ!!!」

 頭突きを食らわせてから、掴んでいる手を解いて思いっきりぶん殴る。

 理由は空いていた片手で腰を触ったから。

 意識をそれで飛ばせなかったか…、ならもう一発!

「ぐはッ!」

 気絶、完了。

 才造を横へ退けて身を起こし、その背を踏み付ける。

「小助。」

「え、あ!止め!」

 慌てて小助が号令をかけた。


「さぁて、結果は、十勇士全員昇給不合格。特に才造は降給決定。他は不動。」

 十勇士の目が気絶したままの才造を振り返ったが、文句は無い。

 何故、お前は彼処で手を出したんだ…。

 と思いつつ頷いた。

「他、結果を貼り出す。確認して置くように。」

「はっ!」

 夜影は深い溜め息をついた。

 十勇士の昇給を意地でもさせたくなかったのは、修理費の負担、十勇士の昇給負担をせねばならぬからだ。

 主が幼くないのであれば、負担は少なくて済むのだが…これは仕方が無い。

 相手が新たな毒を己に使う度に、夜影の血肉は猛毒と化していく。

 耐性を上回る毒を使えばいいってもんじゃない。

 修理完了するまで、幻夢の術で全ての目を騙さなければならない。

 体力がもつのか…?

 頭を抱え、項垂れた夜影に新規部下らは心配そうに首を傾げるのだった。


 才造は二日間目を覚ませなかった。

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