第96話十勇士 壱ノ試
「始め!」
才造の号令で小助は片足を前に踏み出すが、夜影は両手を前に付く。
小助がもう片足を立てるのとほぼ同時に夜影は両足を開き両爪先を床に付ける。
まるで獣の構えである。
小助の目が夜影を観察するのを妨害するが如く夜影は床を蹴り両手で前に身を押し出し前進、小助の方へ急接近する。
両手が最後床を離れるのだから、その手で攻撃へ転じるには遅い。
小助は両腕でその突進を防ごうとしたが夜影は両手のその押し出す力で一回転、両足で勢いよくその腕目掛け飛び蹴りを食らわせる。
反動を利用し逆一回転で戻り着地し、夜影は目を細める。
素早い判断と防御ではあったが、夜影の蹴り一つで後方へ退かされた小助は痺れる痛みを腕に抱えながらも観察を続けた。
夜影は小助の観察眼を信用、また信頼はしているがそれはあくまでも己以外の対象に関してであって己を対象にした観察眼に関してはまだまだだと思っている。
というのも、小助の目を騙すのは確かに他の十勇士でも容易でない。
いや、不可能に近い。
だが夜影の偽りを見抜くまでとは至らないようで、鍛錬に付き合わせればそれはもう浮き出てよく見える。
印の場所も特定出来るだろう、印の違いくらいは見分けられるだろうが、問題はそこじゃない。
奪わなければ意味が無い。
審査で昇給を許してやれるくらいには、奪うことにもその観察眼を生かさなければならない。
小助もそれは理解している。
「それか!」
夜影へ飛びかかり、手を伸ばすのではなく忍刀を晒した。
夜影がそれに大型手裏剣で応え防ぐ。
鞘を使ってでも、やはり両とも防がれる。
小助の速い印判断に、夜影は口角を上げた。
刃の攻防戦と化し、小助は隙を見つけて手を伸ばすが、夜影はそれを寸でで避ける。
音と共に強く前へ足を踏み出して大型手裏剣が小助に迫ればそれを見切って寸でで避け夜影へ突進する。
夜影は大型手裏剣の鎖を引き、小助の背後を追わせる。
刃を防ぎ、鞘が夜影へ振られるのに避けることは不可能。
夜影は迷いなく鞘を噛んで止め、大型手裏剣で小助の背を斬った。
勿論、傷は浅い。
そうでなければいけないのだから。
夜影は印を取り出し、縦に折った。
「止め。」
夜影がそれを折れば終わりの合図である。
小助は項垂れる。
結構惜しいとこまで潜り込んだつもりだったのだが、背に傷を負ってしまえば。
「小助、あんたの甘さは己で理解してるね?」
頷く小助に夜影は短く息を吐いた。
忍は、生きて情報を持ち帰らなければならない。
生きて、帰らなければならない。
戦闘に陥ったのだとしても、無理をしてはいけない。
物欲しさに手を無理に伸ばせば、失うものが大きい。
「次!」
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