第93話入隊を挑め
夜影は入隊試験として様々な任を課し、結果を眺める。
「上々、上等…よし。さて、結果を伝える。」
紙の束を見つめたまま険しい顔をしている夜影に、入隊候補者は唾を飲み込んだ。
「漏れる事無く、全員合格とする。何か現時点で異論がある者は述べよ。」
安堵の息をまだつけない。
此処で、潰される可能性もあるからだ。
「無し、か。我が目に狂い無ければ、部下として迎え入れたいのは山々。」
不穏な言い方と雰囲気に、身構える。
夜影の目が溜め息をつきつつ入隊候補者に向けられた。
「最終段階に突入する。」
その言葉に、流石に驚きを目に見せた。
それに構う事無く、夜影は続ける。
「我が主は今幼く、その目を認めるには適さない。よって、代役を我が務める。異論がある者は、述べよ。」
重い声に耐え、見つめ返す。
夜影は一つ、二つと間を開けて、迷いが無いか目を合わせて見た後、さらに続ける。
「無し。では、始める。個々は合格であるが、今この場に揃う全ての者で正しく連携が取れるか否か…試す。」
緊張が走り、夜影の厳しく鋭い目、そして声に臆すことなかれと己に言い聞かせる。
「我に片膝付かせるか、それとも認めさせるか、答えをこの二つとする。」
いきなり、忍隊の長と戦うということに、後退りさえしたくなる。
「期待はしない。過去に我に片膝を付かせた者は未だ居らず。ただ、片膝付かせる程の腕を持つならば、その後の期待を込め、少々位置を操作させて貰う。準備が出来次第…かかってきな。」
紙の束を手放し風に舞わせたかと思えば、それはそれぞれ鳥の形に折れ曲がり、夜影の周りを飛び回り始めた。
夜影は指を組んで、『無』を晒す。
互いに目を合わせ、取り囲むように素早く動いた。
既に己らが漏らすことなく夜影の忍術にかかっているということに、気付けるかどうか。
個々でも集団でも、充分に動けるのか。
その目に迷いも無く、判断を鈍らせず、素早く動けるかどうか。
さて、如何程?
四方から攻めに転ずるのを片は払い退かせ、もう片は腕で防ぐ。
影が落ちてくるのに上空の攻めに転ずるかと目は要らぬ。
背後を取られようと、構いやしない。
背中をくれてやりもしないが。
馬鹿はするな。
それだけだ。
「止め!」
よく通る声に体が勝手に従って、動きが止まる。
それからやっと意識がそれを理解した。
「ふぅ、中々。」
夜影には結局傷一つ与えられず、片膝なんぞ付く程にも及ばず。
夜影は舞わせていた紙を全てその手に吸い寄せ束に戻し、目を落とした。
「手加減無しの本気がこれなら、鍛錬してちょいとやりゃぁ直ぐにでも上がれそうだ。」
夜影がそう呟いたのに気付きここで安堵が零れ落ちた。
この呟きは訳せば、『合格』の一言に値する。
「結果を言う。全員合格。よって、これをもって入隊試験終了とし、全員の入隊を許可する。異論ある者は述べよ。」
全員の目に浮かんだそれぞれの感情を見て察し、夜影は目を細めた。
「よし。では、契約成立とする。我が忍隊の一人として、これより働いて貰う。」
「はっ。」
「知ってると思うけど、現在我が忍隊は人手不足なのよ。悪いけど、明日に非番を回すから、今すぐ十勇士の方行っちゃって。」
何の前触れもなく崩される雰囲気に、まるで芝居をしていたのだと言われた感覚だ。
いや、きっとそうなのだろう。
夜影がそう指示するなり、さっさと姿を消した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます