第与章 最終忍務
第90話仕切り直し
若様を片手に抱えたまま、紙の束をもう片手に持ってそれに目を落とす。
険しい顔にその貫禄ある姿に反して、若様の存在が妙に和む。
「
「若様をほっとけない。すぐ何でも口に入れちゃうから。」
忍隊の長、であるはずなのにそこに在るのはまさしく母親なる者。
それを口にすればどうなるかは言わずもがな、部下は思うだけに留める。
今は夜影の猫耳に興味津々で、それを見ずともわかっているのだろう、耳を動かして
相変わらず器用だ。
「
今の数は長期任務にて居ない数だったか。
「ふぅ、林ノ班は長期任務。霧ノ班、諜報任務の準備。
「指名かよ…。」
「文句は一切聞かない。才造、暗殺任務。」
「
紙の束を頭の高さまで持ち上げると、それに気付いた梵丸がその束から一枚紙を掴んだ。
そして夜影が紙の束を下ろせば一枚だけ綺麗に取れる。
紙の束を懐に差し、その一枚を梵丸からさらっと取った。
「内容はこれの通り。いちいち指示出さない。」
「主を使うな、
上司というのに構うことなくそう発しながら紙を受け取った。
「生憎、両手が塞がってんのよ。」
懐に差した紙の束を出し、息を吸う。
「そろそろ、昇給試験…かねぇ。ということで、小助と才造以外の十勇士はこれの準備にあたれ。」
「うっわ、俺らに関係ないやつぅ。」
「俺らに昇給無いのか?」
十勇士は腕の良さはあるものの、こう他の部下と違い少々自由過ぎる。
慣れたものだが。
「いや、今回は十勇士にも若干の昇給が期待出来る機会はあるから。」
そう放ればやる気を起こしたようだ。
「で、内容は?」
「十勇士の昇給は、高難易度設定。残念ながら長には昇給無しだから、察して。」
「嘘だろ!?長倒せっての!?」
夜影が陰りを含めて笑い、「さぁ?どうだかねぇ?」とからかうが、十勇士の表情は真剣になった。
長を、どう1対1で倒せというのか…と唸る様が毎度のことながら。
「甲賀の里から入隊候補。入隊試験を行う。…が、主が幼過ぎて初段審査が不可能…………察して。」
「今日、十勇士の仕事やけに多くね?」
夜影は構うこと無し。
不足は分身で補う為、問題無し。
問答無用、いや勿論、仕事をしない者はいない。
「海ノ班、城の見廻り。風ノ班、裏山の見廻り。以上!」
「はっ!」
「よし、散れ!」
くノ一らのみが此処に残る。
夜影は男共が全員出て行くのを待ってから、口を開いた。
「あんたら、お疲れさん。」
「長、有難う御座いました。」
「うん。祝言終えてから、どうするか決めて、
「はい。」
くノ一らは此処で道を選択することとなる。
祝言を挙げ、子を成し、再びこの忍隊に戻るか、静かに何処ぞで暮らすか、忍の里に帰るか。
この武家では、くノ一らを捨てるでも無く契約に祝言についてまでを入れて雇っている。
祝言を望まないくノ一はおらず、この時期になると深刻な人手不足が忍隊を襲うが、この波を乗り越えたなら再び活気が宿るだろう。
多くのくノ一は夜影の元に戻って来たがったり、忍の里に留まりながら武雷家への支援を少々ながらする。
武雷家は一部の忍の里と繋がっており、基本的には忍を雇うのはその里と決まっている。
夜影が里を全て廻り、候補を出しそれらが他を望まないならば此処に入隊試験を通過し入隊する。
夜影が選んでいるせいか、その里から来る忍が入隊試験を通過出来なかったことは無い。
夜影が居ない年は流石に続出したが、仕方あるまい。
夜影には忍を見抜く目があり、本人はそれを自覚していない。
この目は玄人であるからこそ、長年日ノ本一の戦忍をやっているからこそ磨かれたモノ。
そう容易く見間違うことは無い。
また、その目を騙すことも容易くはない。
赤と漆黒の瞳には常に、世の陰が見えているのだ。
夜影もまた、世の陰で生きる者である故に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます