第83話何を好む?
「夜影に贈るとしたら何を贈る?」
「贈り物…ですか?それも、夜影に?」
才造が思わず問い返したのは、意外性ばかりがそこに含まれていたからだ。
主が言うには、別に女性に物を贈るならばを考えて迷ったわけでもなく、夜影との距離を縮めるには如何致せば良いのだろうかと蝶華に相談したところ、贈り物をしてみては如何かと案を出されたからだ。
しかし、夜影は忍。
あれが何を好むか察することが出来ないのだ。
「主、一応ですが、忍に贈り物というのは…。」
才造が顔をしかめるのも当たり前だ。
褒美だとか恩賞だとかと言えばまぁわからんでもない。
あの腕の良さに給料が割に合っているようには思えない働きぶり。
それでいて非番は要らないという仕事中毒ぶり。
給料を増せという文句もない。
戦での暗躍、いや最早活躍がそこにある。
だがしかし、忍という草に贈り物をするというのは周囲の目がよく思わぬだろう。
夜影も、贈り物だと言われ受け取れと言われてもとても受け取りそうにない。
これでも主が『贈り物』と言うのであればもう何も言うまい。
「わかっておる。だが、距離を近うするには贈り物と聞いた。」
頑なにそれを持ってくるか……。
「して、夜影の好みは知っておるか?」
その主の問い掛けに、首を振るしかない。
「あの夜影ですから。好みと言えば主の目だとかの話ばかりで。」
いくら才造と夜影の距離が主よりも近付いていて、口調が解れたといっても、好みはまだ探れない。
知れるものなら知っておきたいのは主だけではないのだ。
「夜影に聞き、欲しい物を調達すれば早いですがね。」
効率的、確実に、だとか言えばそうなる。
さて、聞いて答えるか奴だったか?などとふと思ったが。
「それでは某や蝶華が夜影に頼んでおるのと同じではないか?その、やりとりでは。」
ごもっとも。
才造では贈り物についてはどうとも言えない。
いっそ、そうだ。
夜影は普通とは異なり少し変わっている面がある。
女だからといってそれに当てはめても微妙な反応しか想像出来ない。
やはり忍であるが故、さらには他の忍とも違う。
少々、難易度が高いようだ。
「何かないか?」
「何か、と申されましても。鋭利な物…例えば武器を贈っては?」
才造がはたと気付いた記憶の隅。
それにあったのは夜影が鋭利な破片を拾い上げて笑んでいる姿。
それを確か、大事そうに懐に入れていた。
それが次に顔を出したのは、戦場であった。
飛苦無と同じ使い方をしてその手から失っていたが、もしかするとそういうのもありなのではないか。
「武器?」
「ええ。飛び道具であれば少々気が引けますが、短刀や忍刀となれば贈った後が。」
そこで言葉を止めたのは、言うまでもなく想像できるだろうからだ。
主は少々考えてから、それにしようと決めたようだ。
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