第75話意地

「六郎様、夜影を虐めては駄目でしょう?給料は払ってあげてくださいね?」

「わ、わかっておる。あれは冗談のつもりだ!」

 とは言ったものの。

「ほれ。」

「要りません。」

「給料だ。受け取れ。」

「頂けません。」

 不機嫌な様子でそう答えられる。

 意地でも受け取らないと言いたいのだろう。

 既に夜影は傷だらけの状態。

 そう、あれから倍働きおって部下や才造に止められるほど何故か張り切ったらしい。

 お前はどうしたいのだ……。

「あれだけ働かれては払わねばなるまい!」

「いいえ。4ヶ月は頂けません。」

 きっちりそれを守ろうとされては困る。

「受け取らぬというのか。」

「はい。」

「ならばもう働くな。」

「お断り致します。」

 かつてこんなにもタダ働きをしたがる忍はいただろうか。

 いや、いるわけがない。

 傍から見れば、確かにこの状況はお得だ。

 給料を要らぬという忍がいつもより働くのだから。

 だがしかし、それではなるまい!

 結局受け取ってくれず逃げられた。


「長!ご無理はなさらないで下され!」

「して、ない…。」

 部下の声には耳を貸さない。

 才造が抑えにかかっても全力で逃げるらしい。

「お前はぶっ倒れたいのか?」

 才造がそう問えば夜影はつんとそっぽを向く。

「働いちゃ悪いっての?」

「お前断食してるな?」

「だから何。」

 当然だと言うように即答。

 才造には止められそうにない。

 倒れたら困るというのに、この上司は…。


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