第47話どうやら死地が
この話を聞いたは最近。
話が実行されるも最近。
己の死期を悟った目が、次の戦に
日に日に、夜影は夜影であることを欠いてゆく。
ただ、主の猫なのだという顔のみを残して。
警戒心は殺気に、殺気は察知に、察知は殺意に、殺意は護衛に、護衛は主を。
主の傍を許されない。
それはいいとしよう。
癒しとした其れは、これより刃を持つ。
縮んだ距離は、離れることを加速させた。
たった、一年、二年の間だったのだ。
一室でぐったりと才造が横たわる。
そこには夜影という黒猫はいない。
心無しか、寂しげな背中。
と、見られていたが、実際のところはそこに夜影がおらずとも、脳内で満足していた。
思い出せばそれで良し。
生きているのだからそれで良し。
触れた時の感触も手に残っている。
あとは、妄想力か想像力かで癒される。
「才造さん、三毛猫はどうでしょうか。」
そう連れてこられた三毛猫には目は向けるが触れなかった。
「あぁ、浮気はせん、という目だなあれは。」
「わかるのですか。」
「あれだけ黒猫を好いておいて、この三毛猫には触れんところがまた。」
「なるほど。」
と、いうことで三毛猫は外に返された。
二年という短さで、距離は変化した。
それがいけなかった。
何か隙間風か、いや…この距離には隙間というには大きすぎて容赦なく冷たい風が通り抜けていく感覚に襲われる。
夜影という名は、もう、呼ばれなくなる。
この口はまた、声も言葉も失うのかもしれない。
だが、それでよかったのかもしれない。
夜影という存在が近くに居ないことで、才造はまた元の姿へと戻る。
猫とじゃれることが出来なくなれば当然、それをしていた時間を仕事や作業に回せる。
癒しとしていた一時でさえ、徐々に失ってきた。
夜影がいた時は、表情は普通であったのだが、そうでなくなった今はまた無表情よりも険しい表情を浮かべる方が多い。
休もうという気が上がらなくなったのが原因か、身が完全に動かなくなるまで気付けずに。
己が倒れたことに気付くのでさえ遅れた。
根を詰め過ぎたか?
ゆるりとこの目は何かを見ることをやめていく。
うっすらと、意識が其処で動く部下を捉える。
何か声を出す其れに、返答も理解も出来ない。
頬に強い衝撃が入り込んだ。
頭が反れる。
痛みは後から追いかけてきた。
「気をしっかと持て!」
意識と視界は、引っ張られるように取り戻される。
支えられて身を起こしている状態で、手さえ動かないと知る。
ぼんやりとした頭は、加速はしなかった。
都合良くは行かないものだな。
廊下を、黒猫とすれ違った。
お互いに、お互いを振り返ることも無かった。
それどころか、其れと判断は出来るものの、目さえ向けなかった。
もう、あの一時の距離は無かったものとされた。
それに何かを思うことさえない。
元々は、無いはずの距離である。
それにしつこく求めるほど、忍は人ではなかった。
だが、この一言を背中で聞けば振り返る。
「あんたは次の戦に呼ばれやしない。」
誰の声かわからなかった。
振り返った時には、黒猫も居ない。
次の戦…となれば黒猫が備えている戦だろう。
其処に呼ばれない、つまり任務等で戦に参戦出来ないことを意味した。
そうか、と察する。
ならば、主の帰りを待つだけだ。
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