第35話拾ったそれは
「忍殿!」
「此処に、って、は?何…考えてるんです?それ、子忍じゃないですか。」
「そうなのか?」
主が知らぬ子忍を隣に置いて首を傾げるのに、忍はその目を細める。
主の反応からして、知らず連れてきたか、来たのを迎え入れたのだろう。
忍は腕を組むと、その子忍を鋭い目で睨む。
お子であろうと、未熟であろうと、忍は忍である。
「で、どうしたんです?」
「道端に
「つまり、拾った、と?何処のお子かも確認せず?」
「何を怒っておるのだ。」
溜め息をついて、そこに座っている子忍の目の前に立つ。
見下した目で、睨みつける理由は警戒心である。
「あんた、何処の子忍なわけ?子忍だってことを隠したまま、此処に居れるとでも思った?」
「忍殿、あまり怖がらせてはならぬ。」
「あんた様は忍を本当にわかっちゃいない。お子だろうが、そうじゃなかろうが、忍ってもんはそんだけ信用なんないもんなの!」
「そんなことはないぞ!現にお前もお前の部下も、信用出来るではないか!」
「
「もうよい!忍殿は向こうにでも行っておれ!」
「呼んだのあんた様だけどね。あーあー、何があっても知りませんよー?」
呆れて忍は影に消えた。
それでもやはり、警戒心の目を閉じる訳にはわけにはいかず遠目から見つめる。
もし、のことがあれば。
「主ー、夕飯は何に致しましょーかね?」
「いや、今日はよい。」
「まーだ怒ってるんです?」
「む、飯には関係ないぞ!」
「あら、そういう感じ?じゃぁ、こちとら任務に出るんで。」
「うむ。」
と、言いつつ身を引っ込めたものの。
あの子忍が作ったのを見て舌打ちする。
子忍の真横に立って、眺めた。
「ふぅん。」
「あ、あの、」
「料理出来たんだ?」
「え、あ、はい。」
その怯えたような目なぞ気にせず、無表情は笑んだ。
「見た目は美味しそうじゃん。」
それに安堵した顔を浮かべた。
忍はその笑みのまま、まだ疑う。
「味見でも、しようかね。これで不味かったら主に出させやさせないから。最初っから作り直し。勿論、味付けは教えるし。」
「え、そんな、そこまでして頂かなくとも…。」
そして、舌の上で転がす。
その味は、よく知っている。
「なるほど……ね。」
「え?」
「あんた、このまま出せるとでも思ってた?残念でした!主の口に入るものは全て毒味するし、そもそもいつもは毒味の手間を省く為にこちとらが作ってるんだよね。毒の味くらいわかる。殺す気だったね?」
一気に早口で子忍を見ずに言い放ちながら、それをさっさと処理し始めた。
そうなれば、逃げ出そうと子忍は走り出すが早々と部下に捕まった。
そして、忍の前へと無理矢理戻される。
「さぁて、喋ってもらおうか?隠し事はしない方がいい。言わないなら薬で嫌でも喋って貰うけどね。」
その笑みは、怒りを見せた陰りがある。
包丁を片手に、早く言え、という威圧的空気を作る忍に対し、震えだした子忍はその目に水をためた。
部下をこのままこの子忍の為だけに待たせるのも無駄だ。
子忍の片腕を掴む。
「戻っていいよ。」
「はっ。」
素早くその身を消す。
子忍の抵抗は失せた。
その腕を離し、包丁の刃でその顎を持ち上げ顔を合わせる。
「あんたねぇ、人様殺そうとしといて、まだ生かされてるだけ運がいいんだよ?さっさと言いな。あんま主を待たせたくないんだけど。」
その目は閉じた。
嗚呼、殺せとばかりに。
包丁を引いて、まな板の上の置く。
子忍の後ろの戸を閉めておいて、食材を手にし、夕飯の
子忍がその音に目を恐る恐る開ければ、忍が野菜の皮を器用に剥く姿が映った。
待ってるだけは無駄。
時間の無駄。
だったらいつまでも腹を空かせて待つ我が主への夕食を作る。
「言っとくけど、逃げれると思わないでね。さっきウチの部下に捕まったでしょ。今、丁度見廻り時だからさ。確率的には無理だと思うよ。」
皮を剥いた野菜を切り、それを鍋に雑に入れた。
急がなければ、既に
こうなれば見た目は雑でも味付けだけは、と調味料に目をやった。
子忍に目を向けている暇なんざない。
そんな無駄はしてる暇ない。
「ぅ………ぁ……。」
「何。」
忍は小さなか細い声を聞き取り、背で聞き返す。
肉を切り、それも鍋へと放り込めば。
さて、次に何を用意しようか。
お詫びに食後の
主なら飛びつくだろう。
鍋の後であろうが、まぁ、何でもいい。
何があったかな、などと戸棚を振り返る。
「あの、僕、」
「出身、名前、何故、主、この先。順は気にしない。それ以外の情報は今いい。」
「は、はい…。
「ああ、雲隠れか。
「殺さないと、殺す、と。」
「ふぅん。で、この先どうするつもり?戻れば殺されるんでしょ。悪いけど、こちとらはあんたの為に命差し出せないからねぇ。」
そこで、押し黙る。
まぁ、こうもここまで答えてしまえば、たとえ殺したとしても無事ではおれまい。
忍というモノが、そう易々と己を居所を全てを答えたならば、その主までも命を失うことにもなる。
つまり、それらを並べれば大方この子忍は周囲の子忍よりも出来が悪いわけだ。
「友利、そこの戸棚の甘味とってくんない?」
「え?あ、はい。」
馬鹿に素直に従って、言われた通りにそれを手にして持ってくる。
その頭に手を乗せれば、怯えて震える。
「あんた、もう、帰れないでしょ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます