第28話名案だとばかりに

「(情報通り、会食。当然、客を前に帯刀たいとうするわけない。)早まんないようにね、主。言っとくけども此れ、忍のお仕事だから。」

「うむ…。」

「(警備の度合いから、まぁ、獲物で間違いなしと見た。物見ものみ八人、門番四人、忍は片付けたから良し。)」

 主の様子を一瞥した時、感じた気配は。

「(影から逃れたくノ一一匹、ネ。)」

 振り返り、殺気を少々含め其れを睨めば其れは動きを止めた。

「悪いけど、邪魔されちゃ困るからさ。あとでその術解いたげるから大人しくしときな。」

 小声であれど確かに届いただろう。

 その歯を食いしばる。

 その目は此方こちらを睨む。

 この赤目に囚われたくせに。

「(酒宴、無礼講とはいえ帯刀のまんまで酒席につけないでしょ。これがまた人様の馬鹿らしさだけどね。さぁ、最後のお客さん、お早くその刀を小姓こしょうにお預け下さいよ。)」

 口の端を吊り上げて笑み舌舐めずり…そんな我が忍を見て、こんな顔をするのかと主は驚く。

 まるで獲物を前に舌舐めずりをする蛇である。

 これから締め付け、丸呑みにせんとばかりの表情がまた不気味な赤目と相まり、狙われていない己まで唾を飲み込んだ。

くぞ!忍殿!」

「(んん!?)いや、待て!主賓は佐々機サザキだったんじゃ…。」

曲者くせもの!!物見は…な!?」

 主の腕を掴んで引っ張る。

 これはかなり不味い。

 主が突っ込もうとする前に、まさかの大物がそこにいようとは。

「馬鹿!勝てる相手じゃないっての!引くよ!」

「ならぬ!」

「それ此方こっち台詞せりふ!」

 怒鳴る忍を無視して突っ込めば、大物、向こうの総大将は構える。

 忍は身をかがめ、主の真後ろに。

「(どうせ……っ!)」

 そう思ったが正解、その次には吹っ飛ばされた主が丁度忍の方へ。

 それを受け止め、受ける痛みを減らしてやる。

「いい加減にしろってんじゃん!馬鹿なの!?」

「な!?主に馬鹿とはなんだ!」

「言わせるほどのこたしてんの!こんなの発注外だよ!さっさと帰るよ!」

 指笛を鳴らし、影鷹かげたかを呼ぶ。

 素早く現れたそれに掴まって、空へと舞い上がった。

「(収穫は佐々機の刀一本か。ま、売りゃそれなりにはなるかなぁ?)」

 あの刀を受け取った小姓は己の部下である。

 彼処あそこまでは上手くいったのだが、どうしたものか。

 暗殺は、知らしめる為にすることである。

 だからといって、不忍しのばずの暗殺は如何いかがなものか。


「あんた様、何がしたいの?邪魔したいの?」

「そうではない!」

「じゃぁ、何。これさぁ、大将直々のご命令なんですけどぉ?どうしてくれんの?」

「す、すまぬ。」

「いっそ理由は聞かないよ?」

「聞かぬのか!?」

「聞いたところでどうせたかが知れてる。ってか、聞いて欲しいんだ?」

「俺は、」

「あー、いいです!聞きませんから!面倒だし絶対長い!」

「主の話くらい聞け!」

「あんた、部下の話かないでしょ!報告すらまともに聞かないじゃん!」

 ここまで言い合ったところで、一息を間に入れる。

 忍は頬杖をついて、深い溜め息をついた。

「いいよ…もう。」

「しかし!」

「悪気が無いのはわかってる。どうせ大将も、殺すまでとはいかずとも相手を揺るがせれば良かったんだろうしさ。」

「忍殿…すまぬ…。」

「んー、でも、可笑しいなぁ。なんであんなとこに大物いるんだろ?情報になかったんだけど…。」

 忍からすれば、其方そっちの方が大事である。

 何故?

「あ、(ってことは今攻め時じゃね?)」

 気付いた瞬間、悪戯いたずらっ子のような笑みを浮かべる。

「ねぇ、ちょいと主様?大暴れしてみない?」

「ど、どういうことだ?」

「大物があんなとこにいるんだ。さぞかし城は攻め落とし易いことだろうね?」

 忍の言うことがわかってしまい、困った。

 そんな卑怯な手は嫌いなのだ。

「忍殿、そういう手は俺は、」

「わかってますって!本当に攻め落とすんじゃなくて、ちょいと暴れるだけでいい!お遊び致しましょ、って話!」

 水を得た魚がごとき目をする。

 これはもう、やるしかないでしょ!と言わんばかりだ。

「攻め落とすのではないのなら、何をするのだ?よくわからぬ。」

「そんなの決まってんじゃーん。兵を傷付けるより物を壊すことに熱中するだけだから!ほら、主ってよくへい壊したりしてるじゃん!鍛錬だと思って、ね?」

 一瞬笑みに陰りが入ったのは、鍛錬で勢いよく塀を壊した前科のせいであり、それ以外はない。

「(近々戦だしね。焦らせるにゃ十分!)楽しんじゃわない?」

 その忍のみたことのない輝きは、主を惹く。

「うむ!くぞ!」

 元気よく頷けば忍と共にそこへ向かった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る