第20話長の影

 忍隊のおさ、この忍はいつ寝やるのか常に仕事や主を構うので追われている。

 休む時間がないのは、部下も同じかと言えばそうではない。

 長によって部下の非番ひばんは丁度よく置かれている。

 忍というモノは、感情を持ってはならないとされている。

 長も、当然そうであらなければならず、情で生死を決断してはならない。

 この忍は最初、初陣ういじんで見せたような顔は持っていなかった。


 これは忍が、忍の里を飛び立つ前の話である。

 まだ幼いおでありながら、両親のいない生まれつき片目の赤い其れを忍の里の長が拾ったことから始まる。

 其れは何に置いても優秀であり、そして何の感情も知らない、表情を失った子忍であった。

 色の修行を先輩である忍ですら嫌がるに、この忍は何一つ思うことはせずやってのけた。

 モノや人を見抜くような目を持ち、高く評価を受けたがそれに対しやはり何を思うことはなかった。

 忍隊の長としての素質があると見られれば、この子忍こしのびの扱いは地獄と化すのであった。

 いな、地獄ではまだ生ぬるい。

 それを今の忍は笑いつつこう終わらす。

「地獄だとかどうとか、じゃなくてさ。地獄に慣れさせる為の訓練や修行ってとこかね。」

 それからだろうか。

 長が子忍の抱えるモノに気付いたのは。

 忍のかがみだと言われた子忍は突如とつじょ、笑い狂い始めたのだ。

 それも、地獄の中、状況が酷うなればなるほどに楽しげに笑うのだ。

 嘲笑とも見えるその笑みには、感情はなかった。

 子忍は普通、最初に行うことは素質を見るための総当り戦、殺し合いである。

 その時、多くいたお子は死に、数人が生き残った。

 そのたった数人の中で確かに笑んで立っていたのはこの子忍である。

 次に、体に毒を慣らす為にこれでもかと毒を飲まされる。

 これがまた、苦しいもので死に絶えた者もいた。

 しかしこの子忍はどうだ?

 毒を水がごとき様に飲み込むのだ。


 さぁ、それより過去を見よう。

 この忍、実は何度も子忍としてそのようなことを様々な場所で見せていたのである。

 前世も忍、今世も忍。

 記憶を維持したまま、そう繰り返す。

 初めて忍になった日を、語ろうか。

 これは、日ノ本一の忍を作ったきっかけとなる記憶である。


 赤々と燃えるその火柱は、家を呑み面影すら残さない。

 それを呆然あぜんを見つめるは幼きお子。

 家族を失い、その炎と同じ色を不気味に持った片目と、まるで月のない夜のような真っ黒な光の映らない片目を瞬かせた。

 この時、名は無い。

 親にはこの目を理由に嫌われていた。

 それだから、だろうか。

 このお子には一切、家と家族に対する感情が無かった。

 それよりも、これからどうすれば良いのかという不安が勝る。

 木の根元へ腰かければ、ふと近くに気配とを感じた。

 そこにいたのは…。



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