8.

 遠く揺れる意識の果て――。

 闇夜に谺する奇怪な音。


 音は形となり、渦を巻くように唸り声を上げている。

 轟音の潮流に、身体は引き摺り込まれてゆく。


 底へ……、底へ……。

 昏い水底へ……。


 あれは……?

 ああ、あれは黒い塊……、黒い塊たち。


 水底には黒い塊が数十……いや、数百。

 亡霊のように蠢いている。


 それらが、こちらを見上げている。

 渦に巻かれ、落ちゆく姿を、じぃと彼らは見上げている。

 その表情は、心なしか笑っている――ように見える。


 決して。

 決して表情など見えるはずがないのに……。

 黒い塊に顔など……表情など、ないのだから……。


 なおも身体は底へと引き込まれてゆく。


 ああ、ダメだ。嫌だ。

 そこに……。

 そこに行っては……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る