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 ストーブを修理しにきたベンおじさんが、工具を動かしながら静かに話しはじめました。隣の国が資源不足を解消するために鋼鉄の国へ戦いを挑んだものの敗北したらしい、と。それから、戦いを終えた傭兵たちが一時的に盗賊まがいのことをやっているらしい、と。


「あんたのところも気を付けるんだな。村はずれにある、こんな大きなお屋敷……盗賊どもの標的としては最高だろうよ」

「ご心配、ありがとうございます。気を付けます」


 その一週間後の夜のことでした。

 ご主人様の就寝を見守ったわたしは、二階の小部屋にこもり、裁縫をはじめました。昔なら一時間もせずに終わった作業ですが、最近はどうも関節の動きが悪いせいか、時間がかかってしまいます。もう、限界が近いのかもしれません。


 三時間ぐらい裁縫を続けていたときでしょうか、突如、一階の窓ガラスが割れる音がしました。びっくりして立ち上がり、一階へと向かいます。大広間へと向かうと、そこに、割れた窓ガラスの破片を踏みしめて見知らぬ男が立っていました。


「あん? 誰だ、お前は」

「はじめまして。わたしはこのお屋敷のメイドです。当お屋敷に何用でしょうか?」

「メイドか、話が早いな。おいお前、この家で一番高価な物を持ってこい。殺されたくないだろ?」


 男はライフルを構えていました。銃口をわたしへと向けて、彫の深い表情でこちらを睨んでいます。さて、どうしたものかとわたしは考えました。男に従って物品を渡すなど、もってのほか。何とかこの男を追い払わなくてはなりません。

 この状況をどう打開しようかと考えていたとき、男のすぐ近くのドアが開かれました。そこから姿を現したのは、眠そうに目元をこするご主人様でした。


「っ! お逃げください、ご主人様!」


 声を張りますが、時すでに遅く。


 男がご主人様の頭へとライフルを向けようとしているのに気づき、わたしは走りだしました。きっと男も、その動きに気づいたのでしょう。ライフルをわたしへと向け直し、そして発砲しました。弾丸はわたしの胸部に直撃します。


「アイヴィー!」


 ご主人様が悲鳴にも似た声をあげました。


 ……ああ、申し訳ございません、ご主人様。怖がらせてしまって。このような輩をご主人様に近づけてしまうなんて、メイド失格です。


 しかしわたしは倒れませんでした。そのまま男へと向かって歩を進めます。


「なんで倒れねえんだよ。おい! 止まれ! もう一度撃たれたいのか!」


 わたしは歩みを止めません。

 銃撃が、一回、二回、三回……と続きます。それでもわたしは止まりません。


「なんで……なんで、こんなに撃たれて平気なんだよ!」


 男の顔が、見る見るうちに青白くなっていきます。わたしに当たった弾はすべて貫通することなく地面に落ち、わたしの身体からは血すら流れていませんでした。


 わたしは男の襟首をつかみ上げて、その身体を持ち上げました。


「覚えておいてください。このお屋敷に、アイヴィーがいる限り、あなたのような不届き者の好きにはさせません」

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