ある日のことです。


 ご主人様が、お屋敷の一階と二階をつなぐ踊り場に飾られた、歴代当主の肖像画を見てらっしゃいました。ご主人様の傍らには、大きく成長したシロキツネが座り込んでおり、ときおり、ご主人様へと身体をすりつけていました。


「アイヴィー。この人たちが、このおうちのほんとうのごしゅじんさま、なんだよね?」

「ええ、そうですね。ですが今は、ご主人様がわたしとこのお屋敷にとってのご主人様です」


 ご主人様は、静かに肖像画を見つめ続けていました。


「アイヴィー、どうしてこのえのおねえちゃんたちは、同じ服をきているの?」

「ああ、それは……。この地域には、一六歳を迎えた子供に、成人祝いとして男児なら黒の革靴を、女児なら白のワンピースを両親が仕立てて、プレゼントする習慣があるのです」


「へえー」


 ご主人様の幼い瞳が、わたしをとらえました。


「アイヴィーは?」

「え?」

「アイヴィーは、おれのママ?」

「……いいえ。わたしは、ママにはなれませんから」

「そう。じゃあおれはプレゼント、もらえないんだね」


 その言葉を告げたときの、ご主人様の悲しそうな顔を、わたしは忘れないでしょう。

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