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一年の大半を占める冬が終わり、春がやってきました。
わたしはご主人様の手を引いて、お庭で遊ぶことにしました。はるか昔に建てられたこのお屋敷は、かつては乗馬をしていたほどの広大な庭を有しており、お屋敷の裏手には雑木林も広がっています。ご主人様を自然に触れ合わせるにはもってこいの環境です。
小さなコートを着込んだご主人様が、手をつないだわたしを見上げます。
「あいびー、て、つめたいな」
「ええ、そうですね。わたしの手は冷たいんです。ご主人様の手は、あったかいですね」
「うん! おれが、あっためてやる!」
にっこりとした笑みを浮かべて、ご主人様がわたしの手をぎゅっと握ります。その仕草だけで、わたしは幸せになれるのでした。
その後、まだ雪が残る庭を一緒に歩いていると、お屋敷の敷地の外に、リンダさんが立っているのが目に入りました。
「リンダさん!」
「あら久しぶり、アイヴィー。調子はどう?」
「おかげさまでわたしもご主人様も、とっても元気ですよ! ね、ご主人様!」
手をつないでいるご主人様へと目を向けると、ご主人様は恥ずかしそうにそっぽを向き、リンダさんと顔を合わせないようにしていました。
「ご主人様、リンダさんにご挨拶は?」
「……ごきげんよう、リンダ……。さん」
「なんだい、照れちゃってまあ。あたしはアンタがこーんなに小さかったときから知ってるっていうのにさ!」
そう言って、リンダさんがご主人様の頭に手を置きます。ご主人様は、照れくさそうにその手を払いのけました。
「……すみません、まだ、ほかの人に慣れていないみたいで」
「構わないよ。そんな年頃だろうさ。ところで、今日はいろいろ売り物を持ってきたんだ。何か買っていくかい?」
「……では、これとこれを……」
いくつかの食材と引き換えに、あたしはお屋敷にあった雑品をリンダさんへと渡しました。基本的に今の時代、貨幣の信頼度はそう高くないので、村人との取引は現物のほうが好かれています。
食材を受け取ったわたしは、リンダさんへと別れを告げて、ご主人様と一緒にお屋敷へと引き返しました。
「ご主人様、だめですよ。挨拶はしっかりしないと」
「……むー」
人と触れ合う機会が少ないからでしょうか、ご主人様はどうやら引っ込み思案などころがあるようで、そのあたりが少しだけ、わたしは心配です。
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