神様
上条怜祇
神様
お客様は神様です、と云ふ言葉がある。
――君、今嗤つたゞらう?
いや、構はない。寧ろ大いに嗤つて戴きたい。だが、これから僕が話す事は至つて真面目、大真面目な事だ。
僕はね、君。神様と云ふ者は、意外とそこら中にゐるんぢやないかと思ふんだよ。
イエズは自分を神の子だと云つたさうだね。でもそれは一寸違ふんだ。生きてゐる者皆が神の子なんだ。
確か極東に在る島国では八百万の神と云ふものが在るさうぢやないか。僕の考へはおほかたそれに近いのかも知れないね。
――八百万の神つて何か、だつて? 君、そりや幾ら何でもあんまりだ。八百万の神を知らないのなら、僕の話のこれつぽつちも理解出来ないよ。
八百万の神つて云ふのはあれだ。森羅万象全ての物に神様と云ふ物は存在してゐるつて奴だ。君も何処かでちらと話は聞いた事があるだらう? ――さう、それだ。僕はね、この森羅万象に、人間だつて含まれるんぢやないかと考へてゐるのさ。
いやなに、荒唐無稽なのは判つてゐるさ。でもね、あながち馬鹿には出来ないよ、君。
考へてもご覧よ。この世界を創つたのは神かも知れない。ぢやあ、この社会を創つたのは一体誰だい? まさか神様だなんて云ふ積りぢやないだらうね。――すまない、どうも疑り深くなつて仕舞つてね。ほら、君は一度反論し出すともう止まらないぢやないか。
さて、何処まで話したんだつたか……さう〳〵、この社会を創つたのは人間だと云ふ所だつたね。これには君も異存はなからう? ――さうだらうとも。何せ、かのアリストテレースがその崇高な頭脳を巡らせて、人間がゾーン・ポリチコンだと思ひ至る程なのだから。
この社会と云ふ莫大な物を創造した人間と云ふのはさぞ素晴らしい存在なのではないか、と僕は思ふ訳だ。しかもそれを少なくとも二千年以上は継続させてゐるときたもんだ。君、二千年だよ? 想像出来るかい?
兎に角、人間と云ふ奴はこんなにも素晴らしい事をやつてのけたつて云ふのに余りに謙遜しすぎぢやないか。さう思はないかい? だつて君達の云ふ所の神様は、君達に何をしてくれたと云ふんだ。たゞ棲む場所を与へたに過ぎないぢやないか。
その点人間はどうだ。命を生み出し、学び、働き、経済を循環させ、未来に希望を託す。時に争い、時に協力し合ひ、より好い世界を創りださうと奮闘してゐる。僕はね、そんな人間が愛ほしくつて仕方ないんだ。
だのに神様つて奴はなんだ。人間が苦しんでゐる時にだつて見て見ぬ振りぢやないか。そのくせ上手くいつた時には自分の手柄にする。全部人間の手柄だと云ふのに、これぢやあ余りに可哀想で、僕は見るに堪へないよ。
だから僕は考へたのさ。目に見えない神と云ふ者なんかより、目に見える人間同士が互いを尊重し合ひ、神として讃へる事で、世界つてのは存外上手く回つて行くんぢやないか、とね。
かうすれば、ほら。君、世界にはもう七十五億の神様が存在する事になる。そこら中に神様がゐると云つても過言ぢやないだらう?
――急に黙り込んでどうしたつて云ふんだ。君だつてもう神様なんだ。それは今説明したゞらう。何か不満でも有るのかい?
嗚呼、さうだ。今になつてゞ申し訳ないが、実はこゝからぢや君の様子を見る事が出来ないんだ。
君は一体何処に居るんだい?
君は一体どうやつてこの話を聞いてゐるんだい?
神様 上条怜祇 @kamijo_satoshi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます