七夕の夜、上空では

 七夕。

 それは1年に1度訪れる織姫と彦星が再会するという伝統行事。

 そう、多分に漏れずこの世界でも……。


 天の川。

 とある神話では夜空に浮かぶ光の帯を川と見立てた。

 普段は隔てるものとして機能しているこの川だが、7月7日だけはこれを渡り、久方ぶりの逢瀬を楽しむ事ができるのだと言う。



「織姫……織姫はどこだ」


 初めに男の声がした。


「彦星……彦星はどこに?」


 続いて女の声。

 どうやらお互いを探しているようだ。


「おお……織姫!」

「まあ……彦星!」


 やがて2人は近づいていき、お互いが微笑むと……。



「「生きとったんかワレェ!」」


 刹那、2つの閃光が交差する。

 出会ってはいけない2人がついに1年振りに再開を果たしてしまったのだ。

 この2人は毎年こうして愛を確かめ合うように命のやり取りをする。それは殺気の交じった愛。その形は人それぞれとは言うが、ここまでの激しい愛情の形はそうそうないだろう。

 圧倒的熱量を纏ったこの2人を止められるものなど、人類史にはすでに誰一人として存在しない。


 繰り出される先行、彦星脳天チョップ。

 繰り出される後攻、織姫爆裂ニーキック。


 2人の妙技が炸裂するもどうやら互角の様相。


「ふふ……腕を上げたようだね、織姫」

「そちらこそ……やりますわね、彦星」


 2人はニヤリと笑いお互いを褒め称える。

 その浮かべた笑顔から分かるのは、ここに至るまでに確実に何人か仕留めているだろうこと。

 そして直後両者は更に速度を上げ、音速へと到達する。


「「このままでは……!」」


 埒があかないと判断したのか2人はスピード勝負を棄て、力で捻じ伏せる腹積もりのようだ。各々の体内には高出力のエネルギーが蓄積されていく。


 これを限界まで高めて放ったものを『天の川ブラスターシュート』と人々は畏怖を込めて呼ぶ。そしてこれが炸裂、直撃すると天の川自体が消し飛ぶのだ。

 だが2人にとってそれは瑣末さまつな事。

 程なくして同時に放出されたブラスターはやはり完全に互角のパワーを誇る。彦星と織姫によるこのエネルギーの押し合い勝負は30分にも及んだ。

 このままでは勝負がつかない。

 と、思われたその時。



 ――ぎゅるるるる。


 お腹の虫が唐突に鳴き出す。

 これはどちらのものだったのかは不明だが……。

 この際、深くは問わない事としておこう。


「飯でも行く?」

「はーい」


 そのまま2人はガス○天の川店へ入っていった。

 ついには天の川の平和は守られたとさ。

 めでたしめでたし。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る