異世界転生したら女神様が外国人でした
「おいおい、雨かよ。本当予報は当てになんねーな」
降りしきる雨の中を傘もささずに歩くスーツ姿の男。そいつの名前は
いわゆるどこにでもいるだろう目立たないフツメン。つまり俺。28歳、正社員。彼女なんて居たことはない。べべ、別にいなくても普通に暮らしていけるんだからね!
そんな強がりはさておきひどい雨だな。早いところ帰ってシャワー浴びてビールでも呷りたい。まあ下戸だから1本までが限界だけど、今日は特別飲みたい気分の日だ。
あんのクソ上司の野郎。いつまで経っても俺が指示待ち人間だと?だったらと自分で判断して動いたら激しくブチ切れるくせによ。
あと母親。何で結婚しないの?じゃねえよ。できねえんだよ、わかれよ。アホか。くだらねーことで昼から電話してくんな。
ああ、思い出しただけでイライラしてきた。しゃーない、走って帰るか。そうだな、決めた。ダッシュシャワービールでベッドダイブだ。明日は休日だし泥の様に眠りまくってやる。今日という日はアルコールですべて洗い流してしまうのに限る。
「うわぉっと! あぶねえよ、クソ!」
横断歩道を歩行中、まだ青だというのにトラックがいいスピードで俺をスレスレに通過していく。正直死ぬかと思った。勘弁してくれよ。
あ、でも最近よく読んでいるラノベだと、俺が主人公だったら今の場面でうまいこと死ぬんだろうな。そっから転生とかなるほど理想的な展開じゃないか。色々やり直したいこともあるしな。と言っても俺は死ねなかったし、そもそもあれはファンタジーでここは現実世界だ。
それを考えるとまた落ち込んで来てしまうな。いかんいかん、さっさと帰ろう。
「ふう、ただいま」
誰も居ない部屋に俺の声だけが響く。もはやこれにも慣れたものだ。一人暮らしという実家とは異なる、気ままに自由を謳歌できる自分だけの場所。この1Kの狭い空間こそが我が城だ。
ええい、もうシャワーすらも面倒臭いな。冷蔵庫を開けると缶ビールを取り出す。プシュっと勢いよく開いたそれを缶のままグイっと呷る。相変わらずクソまずい。だがうまい! 俺はそのまますべてを飲み干した。
そのままスーツを脱いで彼方へと放り投げる。狭い中空を舞うとすぐに床へ落ちていく。それを見ていたら急激に眠気が襲ってきた。いくらなんでも一気は……まずかったか……。瞼が重い……。
~~~
次に目が覚めた時には俺はやけに広い真っ白な空間にいた。見覚えがなさすぎて怖い。どこだよここは。もしかして夢の中か?
とりあえず誰か居ないか探してみるか。もし上司の顔をした何かが出てきたらブン殴ってもいいよな。どうせ夢なんだし。
あてもなく歩いていると誰かがいる。ちょっとあの人にここはどこか聞いてみるか。
「あの、すいません」
そこに居たのは白い服を着た女性だった。なんというか、とても美しく俺が直視できない類の人種だった。こういうキラキラした人は苦手なんだよな。
それでも彼女と話をしなければならない。ここはできるだけ目を見ないようにしていこう。
そう考えているうちに彼女もこちらの声に気づいたようだ。すると大きく目を見開いて口を開きだす。
「Oh. Perhaps you are ...(あら、もしかしたら貴方は……)」
なんだって? 早すぎて聞き取れなかったが、もしかして欧米か?
まずいな。俺は英語なんてまったくわからない。どうしたものか。
「Yes! Yes!」
まあ雰囲気的にこれでいけるんじゃないだろうか。俺の勘がそうだと告げているような気がする。
「After all it was, it was good(やっぱりそうだったのですね、よかった)」
「Yes! Yes!」
何だか知らないが会話が成立している感が出てきている。もうイエスだけでいいんじゃないかな。
「Is your name Yuuto Takanashi, is not it?(お名前は小鳥遊悠斗さんで間違いないですね?)」
「Yes! Yes!」
「Well then it's faster to talk. Unfortunately, you died of heart failure(それでしたら話がはやいですね。残念ですがあなたは心不全で死にました)」
「Yes! Yes!」
我ながらいい感じだ。しかし何を聞かれているのかは、名前のところくらいしか理解できていない。多分、今のは世間話的なことだろうな。
彼女とのYes問答は未だに続いていた。
「Is not there any more rethink in the world? If there is no particular thing, I have a favor to ask(この世での未練はもうありませんか?特にないと言う事であれば、お願いがあるのですが)」
たまには気分でNoにでもしてみるか。俺だってイエスマンじゃないからな。
「No! No!」
そう答えると彼女の表情がパッと明るくなる。クソ、美人すぎる。なんてことだ!
「Really? Thank you very much! I was a goddess of a different world although my introduction was delayed(本当ですか?ありがとうございます!自己紹介が遅れましたが私は異世界の女神です)」
「Yes!」
「Actually my world is now in a very dangerous situation and I am looking for a brave man who will save that world(実は私の世界が今、大変危険な状態でして、世界を救って下さる勇者様を探しているのです)」
「Yes! Yes!」
心なしかその女性は瞳が潤んでいる。俺は変なことを言ってしまったか?まあ、イエスとしか言ってはいないが。ここは次の返事をYesにするか意表をついてNoにするか迷いどころだ。
「And I would like you to become that brave man. Of course we do not mind cooperation. What do you think?(そしてあなた様にはその勇者になって頂きたいのです。もちろん協力は惜しみません。いかがでしょうか?)」
彼女は祈りを捧げるかのように両手を胸の前で組み、俺をじっと見つめている。
イエスか? ノーか? ノーか? イエスか?
「Ye, No...?」
彼女の表情が強張る。
「Yeeeeeeees!!! Yeeeeeeeeeeeah!」
「I really appreciate! I can not thank you enough to say so(本当にありがとうございます!そう言ってくださって感謝の言葉もありません)
彼女が喜んでくれてよかった。自分の事のように嬉しくなってしまったな。こんなに清々しい気持ちは久しぶりだった。ただ俺は夢の中でイエスイエス言ってるだけなのにな。
「Do you hear about the world there and about the new ability? Or if you were to say unnecessary, I would like you to head right away(つきましては、あちらの世界についてや、新たな能力についての説明を聞きますか?それとも不要と言う事でしたらすぐにでも向かって頂きたいのですが)」
「No!」
「Oh, It is a strong strength that makes me fall in love. Well then, take care ...(まあ、惚れ惚れするような力強さです。それでは、お気をつけて……)」
彼女が何か言い終えると、俺の意識は遠のき始める。あぁもう朝なのか。仕事は仕方ないが頑張るしかないか。上司もまあ別に嫌いってわけでもないしな。結婚についてはちょっと待っててくれな、母さん。
それだけ考えると俺は深い眠りについていた。
~~~
「いや、ここどこだよ」
次に目が覚めた時には俺はどこかの草原の中にいた。もしかしてまだ夢の中か?まあ夢の中でまた夢を見るということもあるにはあるが……。
とりあえず誰か居ないか探してみよう。
あてもなく歩いていると誰かがいる。ちょっとあの人にここはどこか聞いてみるか。
「あの、すいません」
そこに居たのは皮の鎧のようなものを身につけた女性だった。何というかファンタジー世界とかに出てきそうな格好だな。
そう考えているうちに彼女もこちらの声に気づいたようだ。すると大きく目を見開いて口を開きだす。
「Where are you from? That dress, maybe you ...(あなたはどこから来たの?その格好、もしかしてあなたは……)」
「いやだから欧米か」
俺の夢の話はまだ続きそうだ。
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