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商人ギルドのある通りにやってきたレイナ。
「冒険者の方はよく行くけど、こっちは来たことなかったわね。」
冒険者ギルドとは反対側の通りに商人ギルドはある。支部とはいえ商人ギルド、そこらの建物よりもしっかりとしている。
「初めて入るところは、妙に緊張するわね。」
レイナは商人ギルドの扉を開け、中に入っていった。
「ロムの紹介状、役に立つのかしら・・・。」
レイナは受付に行き、事情を話す。
「すみません、そのような話はプライバシーに関わる事になりますので。」
話を聞いたうえで、申し訳なさそうに受付嬢は断りを入れる。
「えっと、紹介状を持ってきたんだけど。」
レイナはロムに渡された紹介状を受付嬢に渡す。
「紹介状・・・ですか?ちょっと拝見します。」
紹介状を見て、受付嬢は先ほどの答えを変える。
「ロム様のご紹介ですね。かしこまりました。判るものをお呼びしますのであちらで少々お待ちください。」
ソファーに案内されたレイナ。そっとソファーに座る。
「ロム、随分ここの顔が利くようになったのね。」
この街に初めて来たときのロムを知っているレイナからすれば、ちょっとした驚きである。
「それにしても、高そうなソファーね。ちょっと落ち着かないかな。」
ソファーの弾力に戸惑いながら待つレイナ。
しばらくすると、二人組の若い男性がこちらに近づいてくるのが見えた。
二人組の一人がレイナを見つけ、一人が手を差し出す。
「初めまして、あなたがレイナ様で?」
手を差し出した男性の問いかけに応えるレイナ。
「えぇ、そうですが。」
そう言って、レイナは差し出した手を軽く握り、直ぐに離した。
「私、こういう者です。」
男はそう言い、小さな厚紙を取り出しレイナに手渡した。
レイナはそれに書かれた文字を読む。
「ビッツゲート代表取締役社長 ビッツ?」
聞いた事の無い会社の名前と、その肩書を見て少し首を傾げるレイナ。
「はい。この度はわが社の交易商人が襲われた時のお話を聞きたいと。」
相手から本題を言って来た。レイナはちゃんと話が伝わっている事に安堵する。
「そうですが・・・社長さんがなぜ?」
最初に思った疑問をビッツに尋ねる。
「我が社で起こった事件ですし、何よりあのレイナ様に動いていただけるとあれば、私がご挨拶しないわけには行きません。」
「そう、かしこまらないでください。私はただの冒険者ですから。」
最近このセリフを言うことが多いと感じるレイナ。一時期よりは少なくなったが、まだまだ多い。
「では、早速ですが襲われた時の詳細を教えていただけますか?」
この話を引き延ばしたくないレイナは早速本題に入った。
「わかりました。ハム君、教えてあげたまえ。」
ビッツはハムと呼んだ男の肩をたたく。
「は、はい!」
緊張しているのか、ハムの声が裏返っている。
「お、襲われたのは日没時で、キャンプの準備中でした。」
「どの辺りで?」
レイナが地図を広げる。
「ここの辺りです。」
ハムが地図に印をつける。森を迂回するルートで、一番森に近づく場所だ。
「何人組だったか、覚えてますか?」
「人間は二人でした。」
「人間は?」
奇妙な言い回しに食いつくレイナ。
「はい、二人組のそばにぴったりくっついている何か黒いものが見えました。」
「くっついている?」
「そうです、ずっと二人の後ろにいるというか、足元から離れないというか。」
日没で見えなかったのか、本当に黒いものだったのか、レイナは質問を続ける。
「野盗の顔は見えましたか?」
「顔を隠していましたが、目ははっきりと見えました。」
「服装は覚えてますか?」
「この辺りで購入できるマントと、布の服を重ね着している感じでした。」
野盗の姿は確実に見えている。という事は、黒いものはなぜか正体がわからないという事になる。
「なるほど・・・。襲われた時、何か言っていましたか?」
「命が惜しければ荷物を全部置いて行け、置いていくなら街までは安全を確保してやる。と。」
意外な言葉に驚くレイナ。
「随分良心的な野盗ね。」
「なので、素直に荷物を置いて街まで来たんです。」
商人の緊急事態時の行動に従ったと言うハム。
「街までの道すがら、野盗は着いて来た?」
「いえ。でも、それから街までの間は野盗どころか魔物にも会いませんでした。」
少し考えるレイナ。黒きモノらしき物体を引き連れた二人組の野盗、姿を見られても気にしていない態度。
街までの安全の確保はたまたまかもしれないが、普通の状況ではないというのは確実だ。
「そう。で、置いて行った荷物はどの位なの?」
「一頭立ての馬車一つ分の荷物です。」
ハム一人で輸送していたとすれば少々荷が重いが、商人の隊列としては小規模だ。
「他に、野盗が欲しがりそうな荷物とかは?」
「特になかったと思います。荷物の内容に関してはお話はできません。すみません。」
「いえ、いいんです。ありがとう。」
レイナが手を差し出すと、ハムもそれに応じた。
「お役に立てましたかな?レイナ様。」
そう言ったのはビッツだ。
「ええ、有意義な情報をありがとうございます。」
「それでは、私どもはこの辺で。」
レイナとビッツは握手を交わして別れた。
その後すぐに商人ギルドを出たレイナ、少し立ち止まって考えをまとめる。
「これ、多分・・・本職の仕業じゃない。」
あまりにも不自然な点が多すぎる、そういう答えに行き着くのも当然の話である。
「ちょっと、厄介な事になるかも。」
いくつかの疑念を解消させるため、レイナはその足で冒険者ギルドに向かった。
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