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空飛ぶ杖のおかげで、日が落ちる前に村にたどり着けたレイナ。

「ここの場所も覚えたから、次はもっと早く来れるわね。」

村の境界を示す木製の柵と門の前で、レイナはゴーグルを外し、杖を片付け、手櫛で髪を整える。

準備が出来たところで、門を開けてレイナは村に入った。

「えっと、ここの村長さんはどこかな?」

周囲を見渡すレイナ、小さい家と畑が広がるのどかな場所だ。時折、家畜や鳥の鳴き声も聞こえてくる。

「今日はここで宿泊ね。その前にお仕事終わらせなきゃね。」

夕暮れも近いためか、周囲に村人の姿はない。

「とりあえず、そこら辺の家の人に話を聞くのが早いわね。」

窓から明かりの漏れる家を探して、レイナは家のドアをノックする。

「すみませーん、ちょっといいですか?」

「はーい。」

家の中から女性の声が聞こえ、ほどなくして扉が開いた。

「あ、お忙しい中すみません。この村の村長さんの家を探してるんですが。」

「村長の家ですか?ここをまっすぐ行った白い壁の家ですよ。」

レイナよりも少し年上の女性が、指をさす。その方向に、白い壁の家が見えた。

「あそこですね、ありがとうございます。」

「いえいえ、どういたしまして。」

村長の家がわかったレイナは、さっそく教わった通り、白い壁の家に向かった。


「ここね。」

白い壁の家についたレイナ、家のドアをノックする。

「すみません、冒険者ギルドから来ました。レイナと申します。」

「え?ギルド?レイナ?」

中から慌てる声が聞こえる。

「ちょ、ちょっと待ってください。今開けます!」

ドタバタと慌てる音が聞こえたかと思うと、ドアが勢いよく開く。

「れ、レイナって、あのレイナさんですか?」

初老の男性がドアを開けた勢いそのままでレイナに問いかける。

「あのレイナさんがどのレイナさんかちょっと判りませんが、レイナです。」

にこりとレイナが笑顔を見せる、その姿を見て男性はさらに驚く。

「黒衣の英雄、レイナ様ではないですか!!」

そういわれて、レイナは顔を赤らめる。

「いえいえ、そんな風に呼ばないでください。今の私はただの冒険者レイナですから。」

「そう言われましても、英雄様には違いありません。」

男性は頑なにレイナを英雄と呼びたがる。

「うーん、そう言われるのはちょっと好きじゃないんですよ。」

「そうですか、では、レイナ様と呼ばせてください。」

「それならまぁ・・・。」

仕方なく妥協案に乗るレイナ。

「ところで、あなたが村長さんですか?」

「は、はい。私が村長です。しかし、ギルドから使いが来ると聞いていましたが、まさかレイナ様とは。」

レイナの質問に答える村長。

「そうそう、この支給品を持ってきたんです。」

腰につけている道具袋から箱を数個取り出す。

「これは?」

村長が箱を手にして質問する。

「最近また出没している、黒きモノへの対策品です。」

「黒きモノですか・・・この村にも現れて被害を受けました。また出たのですか?」

黒きモノという単語を聞いて、村長の声のトーンが少し下がった。

「ええ、この辺りにはまだいないようですが、いつ来るかわかりません。ですので、これで自衛をお願いします。」

村長は箱を開けようとしていたが、開く様子がない。

「どう使うのですか?」

「黒きモノにその箱ごと当てれば、箱の中身が黒きモノを抑え込みます。後はギルドに連絡が入りますので、直ぐに腕利きの冒険者が黒きモノの撃退に来ます。」

「それは心強い。」

ほっとした表情を見せる村長。

「というわけで、これで私のギルドのお仕事はおしまいです。」

ギルドの仕事が終わったレイナはにっこりとほほ笑んだ。

「で、村長さんに一つ聞きたいのですが。」

改まってレイナが村長に尋ねる。

「何でしょう?」

何でも答えるという表情をしている村長。

「この村の宿屋はどちらになりますか?今日はもう遅いので一泊して帰りたいのですが。」

「・・・宿ですか、でしたらこの家から出て西の方に民宿があります」

レイナの質問に数秒考えて言葉を出す村長。

「よかった、今日は野宿かと思ってたんですよ。」

心底ほっとした感じで答えるレイナ。

「しかし、何分小さい村ですのでレイナ様に御満足いただけるか・・・。」

「気にしないでください。魔法で雨風をしのぐ必要がないだけでも十分ですから。」

村長に笑顔を向けるレイナ、雨風しのげれば十分というのは心からの言葉だ。

「それでは、私はこれで。」

「何のお構いもできずに。」

「いえいえ、それでは。」

「また、いつでもいらしてください。歓迎します。レイナ様。」

家の外で、深々と頭を下げる村長に見送られながら、その場を後にするレイナ。外はすっかり暗くなっていた。

道沿いに点々と置かれている魔法の街灯が、ぼんやりと周囲を照らしていた。

宿に向かう道すがら、村長の姿が見えなくなったところで、レイナはぼそっと呟く。

「有名って、やっぱり面倒ね。」

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