第13話 シガーの楽しみ方

 イタリア語の歌詞が流れる中で、ドンさんは一口ゴッドファーザーを啜ってから、語り始めた。


「シガーは、何十分かかけて吸うのが普通でね。

 僕は面倒だから家で済ませてしまうんだけど、本来はカッターを使って、吸い口をカットするところから始まる。

 切り口を狭くすれば濃厚な味が、広めにとれば緩やかな味が楽しめるので、このカットの幅も、こだわる人はこだわるね」

「何十分も?」


 私が尋ねると、彼は答える。


「まあ、世の中にはシガー専用のケースなんかもあって、これは、忙しい人向けにいったん火を消したシガーを吸い直すためなどの目的があって使われるんだけど、個人的にはこれはお勧めしない。

 そう言いながら僕も、結局持ち運びのためにこうしたケースを使いはするんだけど、吸い直し目的で使うのは、ともかくやめた方がいい。

 何十分もかかるけど、それ相応にくつろげる時間と場で吸うのが、シガーにとっても、吸い手にとっても一番だと思ってるからね。

 さて、少し脱線したけど、カットされたシガーは、次に点火しなければならない。

 面倒な人や映画のマフィアなんかは、通常の紙巻のように口に加えたまま火を点けたりもするけど、あれは本当は邪道でね。

 さっき僕がやったように、口にくわえることなく持ったまま、端の方をそれなりの時間火に当てて、振っても消えないぐらいの火が点いたら吸い始めるのがミソなんだ。そうしないと、変な燃え方をしたり、あまりしたくない方法で煙を吸い込むことになったりしかねないからね。

 火を点けるときは、オイルの匂いが入りやすいライターはお勧めしないが、かといって普通の安全マッチもベストチョイスかというと、そうとも限らない。

 いかんせん、点火に時間がかかるから、長さの短い通常のマッチだと、どうしてもうまく点火しづらく、本数を無駄にしやすい。

 だから、僕が個人的にオススメなのは、シガー用の、柄が長いマッチだ。これもそうなんだけどね」


 そう言って、彼は、テーブルに置いてある、通常のマッチ箱の倍ぐらいの長さがある、細長い箱を指し示した。


「ただ、点火の方法は他にもあって、シガーバーの一部では、キャンドル類を点火用の火元にしているところもあるにはあるね。

 いずれの場合でも、点火は、風のない、落ち着いて取り組めるところで行った方がいい。

 その意味では、外の喫煙所や、屋内でも昨今増えている煙除けの風を流す喫煙所で楽しむには、あまり向かないといえるね。

 さて、火を点けたシガーは、早速吸うことができる。ただ、生の葉を使っている分、シガーの味は紙巻に比べると不均質でね。

 最もうまいのは、「王に捧げるべき」とも言われる、半分ぐらい燃えた頃の時間帯だと言われている。

 吸い始めは臣下、吸い終わりは奴隷にふさわしいと言われていて、最初からそれなりの味なんだけど、中頃でピークとなり、後は徐々に灰の味が目立ってまずくなる、というところだね。

 ただ、これは所詮は俗説で、人それぞれの好みがあっても、全く構わない。とはいえ、吸い始めから吸い終わりまで、徐々に味が変わっていくから、それを楽しむのも一興なんだ。

 それで、肝心なことなんだけど、シガーは、紙巻とは違って吹かすものなんだ。だから、肺までは入れない。

 葉っぱをそのまま使っていることや、太いこと、吸うのに時間がかかることからも想像はつくだろうけど、シガーは、紙巻よりも大分強いタバコだ。

 だから、紙巻で肺喫煙に慣れている人でも、ほぼ必ずと言って良いほど、シガーの肺喫煙を試みたら、むせてしまうだろう。ゆったり吸うべきものを勢い余って深く吸い込んでむせてしまったら、見苦しいことこの上ないし、僕はそんなことをしようとは思わないね」

「なるほど」


 私が相槌を打つと、彼は続ける。


「そもそもの話が、肺喫煙自体、時間のない労働者や兵士が急いで煙を回すために生み出したとも言われているしね。五分で燃え尽きてしまう紙巻の楽しみ方としてはまだしも、何十分もかけてじっくり楽しむシガーには向かないよ」


 私は、興味深い話だと思い、秘かにメモを取り始める。

 今のところはシガーを安定して吸えるほどの収入はないが、いつか試すにせよ、小説の題材にするにせよ、きっと役に立つと思ったからだ。

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