葬式



一人で目が覚めて 朝が始まり、

一人で支度して 朝が終わる

玄関をくぐって今日が始まり、

玄関をくぐって今日が終わる

一人部屋の中で横たわる


あなたがいた頃の記憶がまだ胸を焼いて

あなたがいたこの場所にはまだ温もりが

残っててほしくて


確かに愛は死んだのだ

あの日あの時この場所で

静かに息を引き取ったのだ

もう二度と返らない

確かに愛が死んだのだ

あなたのそばで私の中で

誰にも見送られることもなく

何もない黒檀



あれから私は何か変わっただろうか

あれから私は何か変わったんだろうか

あなたが残していった物 一つも捨てられず

あなたの残していった記憶にすがりつく

私は何が変わったんだろうか


あなたの映ったアルバムを全部焼いて

この心が救われるのだとしたら私はきっと

そんな救いはいらない


確かに愛は死んだのだ

あの日あの時あなたの中でも

それまで繋がっていたはずの皮が

ぷつりと切れたのだ

確かに愛が死んだのだ

涙さえ乾ききってしまって

ただ呆然と眺めている

一人だけの葬列



狂おしいほどに恋してた

壊れそうなほどに愛してた

それなのに それなのに もう届かない

あなたの胸にもたれて眠りたいのに



それから愛は死んだのだ

きっともう目覚めないのだ

そう言い聞かせて押し殺した

心が心が 騒ぎ出す



私は愛を殺したのだ

私がこの手で殺したのだ 嗚呼

あなたの目に映らぬように

あなたの道を塞がぬように

だから愛は死んだのだ

悲鳴一つもあげられないままで

棺桶の中で震えている

ただ火を放て

ふり行く灰を弔おう



弔辞を淡々と述べて 壇上から降りていく

火葬場には私一人だけ

無人の席へと帰る

その道筋で すすり泣く声が聞こえた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る