第4話(; ・`ω・´)フェリー埠頭
7月某日。時刻は午前10時半。我々を乗せた貨客船は無事に東京港フェリーターミナルに到達。接岸と係留に無事成功した。右舷の前に広がっているのは、大きな駐車場だ。百台以上の乗用車と、無数のコンテナがそこかしこにあり、この駐車場の向こうにフェリーターミナルの裏手側が見える。
決死隊のメンバーはデッキの手すりの前に並び、緊張の面持ちでフェリーターミナルの様子を見つめる。
「こっから先はNPウイルスが蔓延してる世界か。全く恐ろしいところに来ちまったもんですな我々は。くわばらくわばら……」
「本当に都心部は全滅してるのかね?」
「ああ、壊滅したと聞いてる」
「日本の五大港の一角がこの有様じゃあそうなるだろうさ。見ると聞くじゃ大違いだよ」
恐るべき死の大地に直面し、皆の気持ちは沈んでいる。しかし父島以外の陸地を初めて肉眼でみた俺だけは、その景観に圧倒されるばかりだった。
「ここが東京かぁ〜!スッゲェな。デカイ建物だらけだぞ岩井」
隣に立つ岩井は、呆れたように呟く。
「何を呑気なこと言ってんだ……。どこもここもウイルスに汚染された廃墟じゃねーか。あ〜嫌だ嫌だ。最悪だ!」
「知ってるか岩井?向こうがお台場で、あっちに東京ビックサイトあるんだってよ」
「俺はとてもそんな観光気分にゃなれない……あっ!」
何かに気づいた岩井が俺の肩を叩いて、埠頭の一角、コンテナが一列に並んでいる箇所を指差す。
「なんかあそこで人影が動かなかったか!?い……今のが噂のゾンビか?」
「え!どこどこ!どこだ。見えなかったぞ」
すかさず先頭のリーダーから激が飛ぶ。
「お前らくれぐれもゾンビに噛まれんじゃないぞ。島でゾンビになられても困るからな。噛まれた奴はここに置いてく」
『冗談だろ!最悪だな』と皆が思っている。はっきり言って今の激で相当メンバーのモチベーションは下がっただろう。でもそれも現実だから仕方がない。
決死隊のリーダーを任されたのは小山和夫という漁師だ。これはメンバー含め、島民全員で決めたことである。彼がリーダーであることに誰も異論はない。年齢は40代で、最年長というわけではないのだけれど、漁師として数々の修羅場をくぐってきたので年上のメンバーからも信頼されているのだ。
彼は双眼鏡を覗き込んでターミナルが安全かどうかを確認する。
「ちっ。チラホラいやがるねぇ……。動く死人どもが」
「マジすか小山さん!俺からは全然見えないんですけど」
「思ったりよりも車とコンテナが多い……。意外に死角があるぞ」
この目で直接見るまでは未だに信じられない部分はあるのだが……。やはりゾンビというものは実在しているらしい。それもこの駐車場に。リーダーの額が汗で滲んでいるのが分かった。暑いからではなく冷や汗のようだ。
「搭乗口付近にはいないから安心しろ。しかし駐車場に1匹だけゾンビが確認できたから気をつけろよ。もしもそいつが近づいてきたら皆で潰せ。安全を確保した上でトラックを動かさなきゃならん。じゃあいくぞ!」
リーダーを先頭にして、我々は注意深くタラップを降りていく。(タラップと言っても船側で用意した簡易的な鉄板に過ぎない)リーダーは振り返り、タラップを渡っているメンバーに告げた。
「気をつけろよ……。ただの死体とゾンビの区別がつきにくいぞ。倒れてる奴にも注意しろ」
緊張が高まる。
船から降りてようやく分かったが、埠頭のそこかしこに死体が転がっていた。放置された車の中で、助手席に座っている白骨化した死体も見える……。見るに耐えない凄惨な光景で、能天気だった俺も今更ながらショックを受ける。
「うわっ……。マジかよ……子供の死体まであるじゃんか」
後ろを進む岩井は、震える手で俺の肩を叩いた。
「なっ!なっ!だから言ったじゃん。ヤベーんだって石見!」
世界がほぼ滅亡しているということが真実であるとようやく実感できた。倒れている屍には大きく欠損しているものが多数あり、人食いゾンビの犠牲者であるらしい。遺体を目にした我々全員が息を呑んだ……。
「ゲホッ。嫌な臭いがするもんじゃな。銃で両手が塞がってるから鼻もつまめんってのに」
「まったく冥土に足を踏み入れた気分ですよ」
船の周辺状況を確認しながら、リーダーは妙なことを呟いた。
「間違ってもゾンビの王と遭遇しなければいいのだが……。遭遇しちまったら隊は壊滅だ。急がねばならん……」
「ゾンビの王?なんすかそれ」
「心配せんでいい石見。万が一の話だ。そんなことより、今からトラックを降ろすから手伝え」
周辺を警戒しながら我々はクレーン作業に入った。(甲板に積んである軽トラックと中型トラックを埠頭に降ろさなければならない)車は現地調達でも良かったのだが汚染されているかもしれない。そのために、わざわざ島から車両を運んできたのである。
「オーライ!オーライ!」
遠くフェリーターミナル駅の傍で、影のようなものが動いてるのが見えた。あれがゾンビの影なのだろうか?しかしこちらに近づく気配はなく、作業は滞りなく終わる。ここから決死隊は二手に分かれることになる。
「石見、岩井。お前たちは荷台に乗るんだ。こっちは俺とお前たちの3人で動く」
長銃を助手席の足元に置き、リーダーは軽トラの運転席に乗り込む。(決死隊員のうち8名は長銃を所持している。その長銃は抜け殻となった父島の自衛隊基地から拝借したものである)
俺たちは軽トラの荷台にヒラリと上がった。
「緊張してきたぁ〜。大丈夫かよ、こんな軽トラで。もっと戦車ぐらい頑丈にしてくんないと困るよな岩井」
「お前は緊張すんの遅えよ。俺はとっくにガタガタ震えてるっての」
俺に与えられた武器は金属バット、岩井は刺又である。特に金属バットは頼りない……。こんな危険な場所で有効な武具なんだろうか!?
「金属バットて……。全然リーチないぞ。やっぱり刺又と交換してくれよ岩井」
「お前がじゃんけんで負けたんだろ。今更、文句言うなっ!」
「ちぇっ。刺又2本ぐらい用意しておいてほしいよな……」
車内からリーダーが叫ぶ。
「飛ばすぞぉぉ!掴まってろよ」
軽トラが急発進する。危うく荷台から落とされそうになるほどの加速だった。
「うわっ!乱暴にすんなぁ!」
あっという間に船は見えなくなり、車はターミナル駅の玄関側へと移動する。これから芝浦ふ頭に向かい、そこで医療品を探しだすことになる。
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