11-2
うまく会話を引き延ばすべきだった。
そうしなかったのは………。
〈同じ〉。
TV局の屋上でも、そう言われたけれど。
再びそう呼びかけられたことに、自分でも信じられないくらい、
〈
けれど、後悔はない。
それどころか、
それを〈
「〈力を貸してくれれば〉、だって? 冗談言ってろよ、〈救世主〉。さんざんひとりで暗躍して、ここまでやってきたんだろう。いったいおまえは、その過程で、どれだけの人間を自分の
そう、利用、だ。
けっして、他者の心からの賛同と協力を得て、
あの〈
〈
『─────理解してほしい。すべては〈救済〉のためだ。私は、未来を、人々を救いたいのだ』
あいもかわらず、穏やかな調子で、〈
『安息の朝を迎えるには、嵐の夜を越えることが必要なこともある』
今度こそ本当に、
〈
あの男は、自分のしてきたことを、踏みにじってきた
あの男の言葉には、〈命〉がない。
眼前に広がる、白い〈街〉同様。
それもそのはず、この〈街〉、この〈世界〉は、奴の心象風景だった。
恐ろしいほどに、寒々しい世界。
先ほど、〈
それを指摘してやる義理はない。
そのことを自覚すらしていないのなら、甘えた
ただ、その
「嵐の夜、ね。その嵐に
可能なかぎり皮肉っぽく聞こえるように、挑発的に笑ってみせる。
『………犠牲、というのならば、確かにそのとおりだ』
僕の笑いに、〈
「だったら何故、自分が犠牲にならなかった」
笑みを消し、突きつけるように、僕は言った。
『────────今、まさになろうとしているとも。私にしか、〈
「違う違う、そこじゃないんだよ、言ってるところは」
長ったらしい〈
「だったら何故、前の時に、堂々と名乗りを上げなかったのか、って
『…………』
あれだけ
「犠牲になる覚悟がある、って言うんなら、〈不死王〉ルッカンブール・ハインに、
言外に、おまえは〈代役〉を立てたんだよな、と含ませる。
人間達、そして〈
いや、違うな。
用意したのではなく、流用したのだ。
「ああ、そうか。〈前回は、失敗した〉とかほざいてたっけ? 意気揚々と大魔法を行使したら、必要な魔力が、〈不死王〉から
それで─────どういう理屈か、おそらくあの〈銀〉から、闇の波動が溢れ出て、解放されてしまったのだろう。
そして、大儀式魔法に失敗した〈
世界各国に流れた動画の粒子が粗かったのは、〈不死王〉が五体満足な状態ではないことを悟られないようにするためだったか。
今思えば、雑な工作だったけれど、僕を含め、世界中の人々は、まんまと
「他人を拉致して、監禁拘束。さらに廃人同然に追い込んで、罪人に仕立てあげた。……〈救済〉が聞いて呆れる。どの口が言ってやがる、って話だ」
『………………』
〈
多少なりと、後ろめたさを覚えていたのかどうか。
「それで今度は
『……あまりに図に乗らないほうがいいぞ、少年』
僕の煽りに応えたその声には、明らかに
「図に乗ってるのはそっちだろう。誰より彼より賢いらしいのに、はっきり言ってやらなきゃわからないのか?」
『─────私が、なにをわかっていないと?』
わずかに虚を突かれたように尋ね返す〈
「おまえは
『─────────────────────』
伝わってきたのは、絶句した気配。
果たして、〈
僕の
似てはいるかもしれないが、決して〈同じ〉ではない。
目指す方向は同じだったかもしれないが、目を向けた先は、違った。
僕が
〈
それが、違いだ。
『……それでも、私の、この〈救済〉ならば、世界に平和をもたらすことができる』
やっと
「ああそうかい。……それなら何故、今回もまた自分の行為を、世界に向かって堂々と、
『───────────』
切り返しで即座にぶつけた僕の問いに、再び〈
僕は、そこを一気に畳みかける。
「それは、人間が誰ひとり、〈支配〉されることなんて望んでいないことを、おまえ自身が一番よくわかっているからだ。人間が、
〈人々〉を、自分の意のままに動く〈駒〉に変え。
〈世界〉を、自分の思い描くとおりの形に整える。
「
湧き上がり続ける怒りと共に、思う言葉を、審判を下すように叩きつけた。
〈
『少年が─────直感だけで、ものを言う……っ!』
腹立たしげに、ようやく振り絞ってきた〈
僕はそれをまた、一笑に付した。
「理屈をやれれば大人かよ。……全部まるごと、許されるのかっ! 寝言は寝て言えっっっっっ!!!」
何年生きてきたのか知らないが、
まったく、聖者だなんだと錯覚し、勝手に戦慄しまくっていた自分が馬鹿らしい。
完全に、損した気分だ。
『もはや言葉は交わすまい………。賛同も協力も得られないのならば、君には死んでもらうしかない……!』
〈
「……おいおい、自分じゃ気づいてないのかもしれないけど。それって三下の、ありきたりなチンピラ台詞だぜ?」
『
ことさら
これにはさしたる抵抗もできずに、僕の体は撃ち抜かれてしまうだろう。
────────────────────先ほどまでの話だったら、だが。
『なっ……』
〈
破壊光線が、僕の周囲で
………最初は怒りにまかせて、〈
途中から僕は、〈
『〈
「ご名答」
うめくように言った〈
……今、僕の身体からは、通常、肉眼では視認できない霊的な
それらは、竜巻のように渦巻き、その渦から、さらに無数の光の
その
これは、
〈
もちろん、それだけではない。
『ぐ……!? まさか……! こんな……こんな、馬鹿な……!』
〈
〈世界〉そのものとなった自身から、急速に〈
〈力〉に満ちた〈
それと同化した〈
ならば、どこからでも〈魂〉の力そのもの、〈
そこに気づいた僕は、密かに自分の異能を発動させ、この空間、この〈世界〉から、〈
人間体の〈
おそらく、〈
そのため、自分の体内同然の、この場所で起こる事象を、知覚・認識する速度が、恐ろしいほどまでに
思えば、僕がこの〈
だから、おおまかな場所を狙って破壊光線を撃ち続け、自分が認識しやすい場所へと、僕をいぶりだしたのだ。
ところが、僕がどこにいようと、奴はどこからでも〈
圧倒的優位にいたはずが、実は、絶望的劣勢だった。
皮肉な話というか、底抜けに間抜けな話である。
もし、〈
僕などに目もくれず、一心不乱に〈
それを邪魔したのは、奴自身の欲望だ。
賛同が欲しかったのか、賞賛が欲しかったのか。
〈
それが、敗因だ。
〈
〈
なんにせよ、今から僕に向かって〈
これはもう、単純に速さの問題だ。
僕は、吸収した〈
当然、光の
この段階で〈
その差は、もはや埋めることはできない。
加えて…………。
〈
〈無〉の〈白〉へと、失われてゆく。
───────だが、その場所に、今度は、別の
『!?……なんだっ!?なにが……なにが起こっている─────!?』
〈
〈無〉に
堂々たる
その巨躯を支える根は、地の四方八方へと広がっていた。
そう、大地。
今や地面は、無色のアスファルトではなく、草花が一面を埋めつくす、色彩ある草原へと
色鮮やかな木々の
そして、風が吹きはじめた。
寒々しかった〈世界〉に、〈命〉の到来を告げるように。
『いったい……いったいなにを………なにをした!? ニフシェ・舞禅!?』
動揺を隠すことすらせずに、〈
「おまえと似たようなことだよ。……ただし、似ているだけで、同じじゃない」
簡潔に、突き放すように応えた。
……この〈
だから、〈
その骨子部分が残っている限り、〈
その可能性を完全に
これは、姫様を助けるために〈
失敗するとは思わなかった。
〈
ゆえに、似たようなことは実行可能だと、確信していた。
僕の
ここで肝心なことは、僕の
〈
『あ、ありえない……! わ、私の、〈理想〉が……〈世界〉が……!』
僕が拡げている〈世界〉への
その間にも、僕の
木々や草花だけではつまらない。
それらを
それでは、
おっと、それじゃあそもそも高い山々が必要だった。
ああ、その
青い空。
姫様が好きそうな、晴天の空を─────────────。
〈世界〉から〈
止まらない。
止めることができない。
だって、描きたい景色は、こんなものじゃ足りないのだから。
想いには、限りがないのだから。
やがて青空のもと広がる、高き
それらの果てに、やがて海、
〈
砕けていく。
〈
〈世界〉は、ひとつの宇宙そのもの。
ゆえに、ひょっとしたら〈
しかし、僕の想定に反し、向こうには、抵抗の意志すらいまだ感じられなかった。
もしかすると〈
いや、それだけではない気がした。
きっと、〈
ただ、それだけのことなのだろう。
………いつの間にか、僕の体は、宙を舞っていた。
背に、〈力〉の放射を感じる。
魔力と〈気〉の
そのゆらめく虹の翼で空を飛ぶ僕の姿が、〈
『な、何者だ……』
〈
『お、おまえはいったい……! いったい、何者なのだ! ニフシェ・舞禅……!』
なにを言ってくるのかと思えば、今更な質問だった。
まともに応える義理もないが、
何者が自分を倒すのかくらいは、教えてやっておこう。
「……おまえがずっと、正面から向き合わなかった者。あるいは、見ていたとしても、
そして、宣告する。
「さらばだ。名を捨てた
冷たく言い放って、僕は自分の異能を、身体や精神、そして魂の限界を感じながらも、全力で振るった。
『う、ぐ……や、やめろ…やめろ……! ニフシェ・舞禅! おまえは、おまえは後悔するぞ! この方法でなければ……! 私の〈救済〉でなければ! 世界は、人々は、永遠に救われない……! 絶対にだ……!』
自分の最期を感じているのか、恐怖におののいた声で、〈
せめて最期くらいは、〈偽物〉であれ、救世主らしく語ってみせればいいのに。
…………後悔なんて、しょっちゅうだ。
─────────それでも。
悩みながら、あがきながら。
そうしていることさえ、自分でも気づかずに。
最果ての星、まだ見ぬ明日を目指すのが、生きている者の
だが、その言葉は〈
もはや追放の宣告は済み、
これ以上の対話は不要。
無言で、世紀の詐欺師の、
『ぎ、が、ぁ、ぐ、ぎ、あ、ぐぅぅぅぅぅぁああああああああぁぁぁぁぁ・お・お・おお・おおおおおおおおおおおおおおおおおおぁぁぁぁあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ───────────────!?』
呪詛のような、狂乱の絶叫。
それが、〈
………………………………そして感じたのは、光の
〈
〈
〈
この〈世界〉、〈
その先に広がる
星々が
その中で、ひときわ大きく輝く星が、ひとつ。
…………心象風景とはいえ、少し、やりすぎたかな?
そう苦笑して、〈
「あれ」
着地して、そのまま、地面にぐらりと倒れこんでしまった。
「ぁぐっ……!」
遅れて、全身が
あまりの痛みに、のたうち回ることも、悲鳴を上げることもできない。
宇宙ひとつを壊すような真似をしたわりには、この程度で済むものか。
ああでも、痛い。
痛い。
痛い
痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぎぐえげぐえげいふおぎへえぎぎぎぐあああぎぐぐあああああああうあうあうあぎげえええええおおおおああぎげげげあぐあがあがぐえええおおいいいうぐぐぐぐがああははががひぎぎぎぎじぐぐおあああがあああぐひぐえぐごぐぐげげげれえええええうごがはががががげえげぎぎぎぐぐごごげあああああああ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………───────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────
〔……シェ!〕
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………姫様?
〔ニフシェ!〕
姫様の……姫様の、声がした。
〔ニフシェ!〕
心の底から、その身を引き裂かんばかりの想いで、僕を呼んでいる。
〔ニフシェ────────────っっっっっ!!!!!〕
……………うん、それならば、応えなくては。
世界で一番好きなひとに、そんな悲痛な声を出されては、かなわない。
そう思った時────────胸のあたりで、熱を感じた。
例の、あの、魔法の護符だった。
そうだ。
この護符ならば、わかる。
たとえ次元を超えようと、
そこを座標軸にすれば、行けるはず。
苦痛にまみれながら、最後の気力を振り絞り、光の帯と
〈
創り上げるのだ。
ここへやってくるために通過した、あの〈銀〉を………!
果たして地面は、あっけなく、
───────僕の体は、〈銀〉の
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