7-2
「オやオや……
死体には、〈
この建物が、〈
しかし、それら死体の
…………
生きていれば敵側であるとはいえ、胸のうちで、わずかに
それと同時に、熱いものが、頭から発して、力を失っている体中に、みなぎりだしていた。
それは、怒り。
冷静に行動するよう、自分に言い聞かせたつもりだったが、そうもいかなくなった。
「……何故、殺したんです?」
この惨状を作り出した張本人が誰かなど、もはや、考えるまでもない。
フヒヒフヒッ、と笑い声をもらすと、
「違イま~すゥ。違いマすよぉーウ? ワタシは、こノ者たちの魂を、救ッてあゲたのでぇス」
………………………………………………………………………聞くだけ、無駄だった。
この男に、
おそらく、〈
しいらさんに、目立った外傷はないようだった。
だが、ベアーのほうは、深刻だ。
人身に戻っているその体には、いくつもの傷が刻み込まれ、全身からおびただしい血を流している。
その刃を受けながら、かろうじて生きている……いや、生かされている状態だった。
僕への見せしめにするために、いたぶられ、連れてこられたのか───────。
「ニフシェ……ごめんなさい」
しいらさんが、
……なにを謝ることがあるだろう。
「大丈夫です。心配しないで」
安心させるために、しいらさんへ、そううなずいてみせる。
とはいえ、こちらは劣勢。
僕の身体が今、どんな状態にあるかなど、とっくに承知しているだろう。
気合いと怒りで、無理矢理体を動かし、寄りかかっていた壁から、離れる。
ゆっくりと、
「……僕に、神の許しを請え、って、言ってましたね?」
「いカーにも」
ニタリ、と
「誰にとっての、神ですか」
刺すように、言ってみる。
が、僕の皮肉など、通用する気配はなかった。
くひひひぐふひ、と
「こノ世の、全テの者ニとっての」
「─────呪ワれた〈
「
間髪入れず、言ってみた。
「神の押し売りなら、他をあたってください」
「そうハいきませーン」
期待など一ミリグラムもしていなかったが、やはり
「ニフシェ・舞禅。ワタシはあナたのコとを、少々、調べさせテもらいマしたヨぅ~?」
「アなたは、不可解だ。正体不明ダ」
おまえの存在のほうが、よっぽど意味不明で、不可解だ。
真剣にそう思ったけれど、黙ったまま、
「あなタが〈
……………………事実である。
しかし、
「そノようナ過去がありながラ、
─────〈
ギャノビーさんらが秘密にしている事実を、〈
〈
……マクロに見れば、確かに、世界を救ったことになるのか。
が、僕にしてみれば、そんな無茶もしたっけか、くらいの実感しかないのだけど。
ちらりとそう考えたとき、
「忌々シい忌々シい忌々シい忌々シい忌々シい忌々シい忌々シい忌々シい忌々シいぃッ! 〈
……………ああ。
病んだ思考の持ち主であることは、重々承知していたが、ここまでだったとは。
──────この男は、〈
おのれの
だから、〈
汚れた〈
「デすが─────」
パッと怒気を消し、
「ワタシは、惜シくも思ウのです。あナたの、人間ヲ救うとイう、そノ行為を。
そう言って
「────呪わレた存在だ。このマま死ねば、ソの魂は、永遠に救われルこトはないでシょう。だカら、是非とモ神の祝福を与エたいのデす。スべての者が、救いを得ル前に」
……なるほど、そうつながるわけか。
僕を回心させることにこだわる、
まあ、納得したところで、溜息しか出ないけれど。
「『何を根拠に〈
その声が、ギッヒヒヒヒヒへひぇ、と
「……呪われテいますとモ! 〈
突然自分の名を呼ばれ、しいらさんは、ビクリと体を震わせた。
「スベて調べはついてイます! そノ母親は、〈
「……っ! や……」
しいらさんの瞳が、揺れた。
「こノ者が、〈
「やめて……!」
しいらさんが、悲痛な声をもらす。
そう直感したが、間に合わない。
僕が何か言うより早く、
「─────ソの手でこノ者の首を絞メ! 実ノ娘を殺そウとしタっ!」
「っぁ─────────────────────────────!」
しいらさんの口から、声にならない叫びが、あふれ、もれた。
ああ───────────────胸の炉心に、火が、入る。
「呪われてイる! 呪われてイる! 呪わレていなイはずがなイ! ゆエにこの者の行ク末をも…」
だが、もう、黙らせる。
「─────そこまでだ。
ピタリ、と、
「……なンと言いまシた?」
「そこまで、と言ったぞ、似非信者」
繰り返し、強調して、吐き捨てる。
「貴様の信仰は、
ピクピクと顔を引きつらせて、
「……ホウホウホウぅうぅぅぅ? ワタシの信仰が、紛い物ト?」
「違うと言うのか? ならば─────証明して見せろ」
ふらつく腕を伸ばし、人差し指を
「僕、ニフシェ・舞禅は、貴様に決闘を申し込む」
「な、ニ?」
「僕は、その二人の命と、僕の魂を賭けよう」
心の中で、しいらさんとベアーに
けれど、
二人の、人質としての有効性を、言葉だけで、
─────こちらの手札が悪手なら、相手をペテンにかけるしかない。
「もし僕が敗れたときは、貴様の神にひざまずき、泣き
……よし。
これでとりあえず、しいらさんとベアーが、即刻、命を落とす可能性は減った。
「─────その代わり、貴様には、貴様の信仰を賭けてもらう」
僕の言葉にじっと耳を傾けながら、
僕は、ひとつ、間を置いてから、言った。
「まさか、信仰とは試すものではない、とは言うまいな? 神の名を掲げ、断罪してきた者が?」
我ながら、安い挑発だ。
けれど、それで十分。
歪んだ信仰心ゆえに、
「貴様は、大勢の命を奪ってきた。神の名を
大きく両手を開いて、最後の挑発を飛ばす。
「貴様の信仰は、僕を滅ぼせるかな?」
ゲオルギウス合金の
次の瞬間には、その刀身が、僕の胸を貫いていた。
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