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世界が一変したのは、前世紀末、一九九×年のことらしい。

らしい、というのは、僕が生まれる前のお話だからだ。


その前世紀末では、世界のあちこちで、終末思想やら、滅びの予言やらが、流行っていたようだ。

千年単位の区切りが近づいていたから、イベント論的で、大衆にウケたのだろう。


それで、そこを狙ったのか、お調子者が一人。


不死王ふしおう〉ルッカンブール・ハイン、その吸血鬼ヒトだ。


〔人間たちよ。甘き時代は終わった。新しき秩序の幕が開く〕


粒子の飛んだテレビ画像で、彼の人は全世界にそう宣言した。


何をしようとしたのかと言えば、ズバリ、


ぶっ飛びロマンスである。


聞けば、ハイン某は、十数世紀も生きていた〈吸血鬼ヴァンパイア〉だったと言う。

頭の中が、昔のままだったんじゃないのだろうか。


閑話休題、世界なんて征服してどうするんだ、とかのツッコミはさておき。

そんなヨタ話が、実現可能か不可能かの話になると……実は可能だったかもしれない、と、推測されている。


常識で考えれば、手段云々以前の問題だ。

けれど、常識外の要因が絡んでくるとなれば、話は違ってくる。




魔法。




人智を越えた、秘されし〈力〉。

〈不死王〉は魔法によって、人類をまるごとみんな〈傀儡鬼パペッティア〉───自分の意志を持たない、操り人形の〈吸血鬼ヴァンパイア〉に変えてしまうことを、企んだのだった。


うーん、超現実的シュール


頭が良いんだか、悪いんだか、いまいちよくわからないところが素敵だ。

ところが、やってる本人は大本気で、実際その計画に使用された魔法も、真剣に危険なものだった。


〈不死王〉は、その禁断の魔法を大実行。


人間を〈吸血鬼ヴァンパイア〉に変生へんじょうさせる闇の波動を、地球規模で、発生させようとしたのだ。

その波動で〈吸血鬼ヴァンパイア〉に変生した人類すべてを、精神感応テレパシーで支配する…………。


それが、〈不死王〉の目論見もくろみだったようだ。


さて、闇の魔法を発動させた〈不死王〉は、事の完遂かんすい寸前、あと一歩というところでしくじった、らしい。


多国籍退魔師団に袋叩きにされたとか、〈不死王〉の魔法が不完全で自滅したとか、諸説紛々しょせつふんぷん、いまだに詳細は不明。


とにもかくにも、〈不死王〉の野望はついええたのだった。

めでたし、めでたし。


……と、なれば話は終わりなのだけれど。

現実は非情である。


〈不死王〉の魔法は、完成こそしなかった。


が、魔法により生じた闇の波動は、不完全ながらも世界中に拡散。


正確な統計は出ていないが、かなりの割合で、世界各地の人間が、人ならざる者へと変生へんじょうさせられてしまったのだ。


その人々には、常識を超えた身体能力が、その身に宿った。

超運動能力、超感覚、不死性、などなど。


その能力、特徴により、変生の仕方は、大きく分けて二種。


強い魔力を有し、幾多の異能力を併せ持つ〈吸血鬼ヴァンパイア〉。

同じく異能力を持ち、その肉体を獣のものへと変貌させる〈獣人セリアン〉。


総じてそれらは、〈亜流系人型種アナザー・レイシャル・ヒューマノイド・カインド〉…………。

────〈人外アーク〉と呼称されるようになった。


人外アーク〉となった……なってしまった者は、確かに、驚異的な身体能力を持つようになる。


……だがそれと引き替えに、魂に、忌まわしき精神衝動を、刻み込まれてしまうのだ。


吸血鬼ヴァンパイア〉であれば、吸血衝動。

獣人セリアン〉であれば、捕食衝動。


どちらも対象は────────人間だ。


闇の波動により変生してしまった人間のほとんどが、その衝動にあらがえないという。


波動そのものが悪しき力であったのか、その影響を受けた者の精神は、黒くむしばまれてしまうのだ。


……そして結果は、ご覧の通り。

─────闇の住人が夜の街を跳梁ちょうりょうし、物騒な武器で身を固めた人間達が、みち徘徊はいかいする。





禍牙夜怪かがやかしき未来へ、ようこそ。





かように混沌な世界へと変貌へんぼうし、人間たちの社会は当然、混乱した。


人間たちはさることながら、迷惑を被ったのは、元々からの自然な〈人外アーク〉。

人間たちと共存し、穏和な生活を望む〈人外アーク〉だ。


人類の歴史の影で、ひっそりと生きてきた純〈人外アーク〉たちにとって、〈不死王〉のやらかしたことは、狂気の沙汰以外の、何物でもなかった。


〈不死王〉の罪を上げれば、ふたつ。


ひとつは、〈人外〉の存在を、完膚無きまで公にさらしてしまったこと。

そしてもうひとつは、その後に似非〈人外アーク〉─────〈偽人外フェイク〉を氾濫はんらんさせてしまったことだ。


紛い物が世を横行するようになったものだから、本家本元まで大手を振って人を襲うようになる始末。


俗世から離れていた〈人外アーク〉たちは、人間社会、ひいては人間自体を、さらに強く毛嫌いしはじめた。


人間たちとの共存を望んでいた〈人外アーク〉たちも、〈偽人外フェイク〉の登場で、人の世との関わりを断たざるをえなくなっていった。


純〈人外アーク〉たちにも、古来からコミュニティがいくつも存在している。


そのコミュニティ連の都合的に言うと、人間社会が混乱したままというのは、好ましくなかった。


〈不死王〉という、の引き起こした事件が原因、というのが、問題なのだ。


とはいえ、人間たちにとっては、〈人外アーク〉は、相容あいいれぬ存在────────。

本物も偽物も関係なく、人間たちは、自分たちの世界から、〈人外アーク〉を排除しようとしていた。


だが、人間たちの力だけでは、超常能力を持つ〈吸血鬼ヴァンパイア〉と〈獣人セリアン〉に対抗するのは、困難だった。


だから、〈人外アーク〉コミュニティ連は、独自に、人間社会に綽名す〈偽人外フェイク〉及び、純〈人外アーク〉に裁きを与え、駆逐する方針をとるようになる。


それで、そいつらを退治して回ってるのが、僕ら。


……もっとも、僕は純〈人外アーク〉じゃないんだけど。


母親が人間の、〈半人外ハーフ〉だったりする。


紆余曲折うよきょくせつを経て、まあ、人間を守る側にいるわけなのだ。


─────僕の名前は、ニフシェ・舞禅まうぜん


日本人としても〈混血ハーフ〉で、存在としても〈半人外ハーフ〉。

当年とって十七歳。


揺らぎ果つれども、しぶとく続く因果な世界。

…………そんな世界で、けなげに、しっかり、生きている──────────。

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