その時、何かが動いた
早苗の声を聞くのと時同じくして、私はふと左手の変な感覚に気づいた。
そしてそれを見て、思わず私も驚いた。
「あぁ、びっくりした。奈緒姉ちゃん、これ珍しいよ。花ちゃんが知らない人の手を舐めるなんて。私初めて見た」
花ちゃんが一生懸命身を乗り出して、私の左手の甲をなめていた。
ぺろぺろ、と必死になって。
私はしばらくずっとそれを眺めていた。
それからゆっくりと、怖がらせないように下から手を出して、優しくその頭を撫でた。それから背中、足と触れて行った。それでも花ちゃんは私の手を舐め続ける。
早苗の声を聞きつけて、美津子おばさんも寄ってきた。
「あら奈緒ちゃん、すごいね。花ちゃんが心許しているのかしら? こんなこと今までで初めて見た」
私は嬉しくなって一生懸命撫でた。今目の前にいるこの小さな命が、とても愛おしく思えた。
私の花ちゃんの思い出はここまで、それ以降は何もない。
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