第96話

 結婚式を終えたナミがユカを寝かしつけて石嶋のもとに戻ってきた。


「今日の式に泰佑達が来れなくて残念だったね」

「昨日スカイプで話したけれど、あっちもオリンピックが近づいて準備が大変なんだって。オキクも石津先輩を手伝っているようだし…」


 ナミは化粧台で肌を整えながら言葉を続けた。


「それに、オキクも身重で長時間の飛行機の旅は危ないんじゃない」

「向こうで産むのか?」

「そうね。オキクのお母さんが行ったみたいよ」

「勇気あるな…。ああ、だから今日は青沼専務の機嫌が悪いんだ。ひとり残されちゃって…」


 石嶋は、化粧台の前のナミをじっと見守っていた。そして、ナミに近づくと軽々と抱き上げた。


「きゃっ」

「そろそろ僕たちも寝ますかね…」

「まだ準備が…」

「もういいでしょ」

「女の子はいろいろ準備が…」

「泰佑と違って、僕はさんざん待ったんだから、これ以上はもう待てないよ。お・ま・え」


 そう言いながらナミをベッドに運んで行った。

 ナミをベッドに優しく置いた石嶋は、ナミを想いやり、決して急がないように自分を言い聞かせて体を寄せていく。すると、目を固く閉じたナミがなにか呟いているのが聞こえた。


「ちょっと、ナミ先生。ここでその呪文はないでしょう。僕は雷じゃないんだから」

「だって…」

「ユカの誕生日に兄弟をプレゼントするって約束したのは、ナミ先生ですからね」


 そう言うと石嶋は布団を持って、抱き合うふたりにすっぽりとかぶせた。



 「ああ、暇だわねぇ」


 ナミの結婚式の後、テレサがホテルのラウンジでひとりカクテルを飲んでいた。

 付き合ってくれる希久美もナミも今夜は居ない。手持無沙汰に、ラウンジの入口を見ていると、パリッとしたジャケットに身を包んだいい男が入ってきた。


「あーん?」


 テレサが彼を目で追っていると、気付いた彼がテレサに笑顔で挨拶して来た。しかもテレサに向って歩いてくる。テレサは慌ててバッグを探った。そして一粒の錠剤を取り出した。


「取っておいてよかった…」


 実は、『やれなくなる薬』にサービスでついてきた『やりたくなる薬』は、みっつだったのだ。


「セックスから始まる恋愛だって、あると思います」


 テレサは万全の態勢で、彼を待ち受けた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

オキクの復讐 さらしもばんび @daddybabes

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ