第77話
今泰佑のベッドを、希久美、石嶋、ナミの3人が囲んでいた。
それぞれが何かを言いたそうなのだが、誰も口火を切れない。雰囲気を察知したミチエは、果物でも買ってくると病室を出てしまった。
しかし、4人がお互いの顔を盗み見しながら流れる気まずい沈黙を、救世主が現れて打ち砕いてくれた。
「泰佑ちゃーん。おかげんどう?あらま、みなさまお揃いで」
「テレサ!」
4人が同時に彼女の名を呼び、そして皆が彼女の名を知っている事にまた驚いた。
「あんた、なんでここに?」
「ナミが一大事だから来いってメールくれたの」
「ナミ!」
「だって、オキクが来るって言うし、3人いた方が心強いかと思って…。でも、なんでヒロパパがテレサを知ってるんですか?」
石嶋はこの前の怒りを忘れて久しぶりにヒロパパと呼ばれたことが嬉しくて、声を裏返しながら答える。
「いえね、青沼さんとユカとで上野公園に行った時に、お会いしたんです」
ナミの顔色が変わった。
「えっ、するとヒロパパのデートの相手ってオキクなの」
泰佑の病的な顔色が驚きで赤く変わった。
「オキク、お前、隆浩と付き合ってるのか?付き合っててあんなことを…」
「キャーッ、ネズミよー」
3人娘が同時に叫んで泰佑の言葉をかき消す。
「ちょっと待ってよ、うちの病院にネズミなんかいるわけないでしょう」
「なによ、あんたも一緒に叫んだくせに」
ナミとテレサの言い合いにも構わず、希久美が泰佑に説明する。
「石嶋さんとはお義父さんの紹介で何度かお会いしただけよ」
「ちょっと待ってください青沼さん。泰佑に言い訳がましく説明する必要があるんですか?」
「いえ、そう言うわけじゃ…」
「ヒロパパ。オキクになんだかんだ言う資格なんかあなたにはないでしょう」
ナミが絡んできた。
「ナミ先生、患者に関する守秘義務は守ってください」
「何言ってんのよ、この卑怯者」
「またぁ、ここでそんな言い方はないでしょう」
ナミと石嶋の言い合いに泰佑が介入する。
「隆浩、荒木先生に失礼だぞ」
「そうですよね、タイ叔父さん」
「えーっ、なんでユカと自分しか知らないその呼び方を知ってるんです?」
ナミに食い下がる石嶋と希久美を交互に見つめながら、泰佑がしみじみ言った。
「でもオキク。よかったな。隆浩に幸せにしてもらえ」
「あら、泰佑すねてんの?」
「馬鹿言うなよ、素直な気持ちだよ」
「も一回ちょっと待ってください青沼さん。泰佑とはどんなご関係なんですか」
「会社の同僚よ」
「ほら、前に話したいじめっ子だよ」
「ああ…。じゃあ石を投げて気持ちいい奴ってのは泰佑のことだったんですか」
「そんなこと言ってたのか?やっぱりな」
「あたりまえでしょ。そもそも…」
「キャーッ、ネズミよー」
今度はナミとテレサの二重奏で希久美の言葉をかき消す。
「うるさいわね、わかったわよ。ところで泰佑と石嶋さんはどういう関係なの?」
「高校時代のバッテリーです」
石嶋の即答に今度はナミが反応した。
「えっ、あの野球部の、あの2番手バッテリー?」
「荒木先生ご存じなんですか?」
「ナミ先生ご存じなんですか?」
「はーい、皆さん注目」
テレサがベッドの上に立ちあがって皆の話を中断させる。
「ここで重大発表がありまーす。そうするとですね、ここに居る5人は、みんな駒場学園の卒業生ってことがわかりましたー」
「えーっ」
5人一斉の驚嘆の声のあと、息せききったように思い出話に花が咲く。
「あのー…」
帰ってきたミチエが申し訳なさそうに入ってきた。
「同窓会で盛り上がっているところ申し訳ないんですが、もう面会時間は終了したと看護師さんに怒られてしまって…」
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