第70話
今日の女子会は、なぜか和食で日本酒の気分だ。だから、希久美は、ナミとテレサを銀座一丁目にある日本料理屋に招集した。
女子会は、いつも騒がしい乾杯から始まるのが常だ。しかし今日の希久美の声には、いつもの張りが無かった。ナミが心配して言った。
「どうしたの、復讐が成就したというのに、なんか元気ないわね」
「まあ、明日のジョーじゃないけど、試合が終わって今はまだ真っ白って感じかしら…」
「でも、考えてみたら、石津先輩は、オキクをほったらかして大学に行った時からすでに、オキクの復讐を受けていたってことね」
テレサがお通しに箸をつけながらナミの言葉に続いた。
「いわば今回の復讐は、瀕死の病人に鞭を打ったって感じかな?」
「いつも思うんだけど、テレサが編集やれているのが不思議でしょうがないわ。なんて不適切な表現かしら…」
「いえ、テレサの言うことにも一理あるわ。でも、泰佑はどうしてそうなっちゃったんだろう。精神科の医師の見地からどう?」
「本人から詳しくヒヤリングできていないから、正確なところはわからないけど…。オキクには失礼だけど、少なくとも一度はオキクとはやれているんだから、先天性のフィジカルな理由ではないわね。やはり後天性のメンタルなものに起因しているのは確実ね。症状が現れた時期を考えると、思春期を迎える前、それも幼年期頃に心に大きな傷を負った確立が高い」
「えー、幼年期に女の子とセックスして侮辱されたってこと?」
「テレサも短絡的ね。なにもこうなった原因がセックスの失敗とは限らないわ。でも女が絡んでいる事は事実ね。幼いころから一番多く接する女って誰?」
「母親かしら…。えー近親相姦?」
「だから、全部セックスに結び付けないでよ」
「そう言えば、以前泰佑のおばあちゃんから昔のアルバム見せてもらったけど、母親と撮った写真が一枚もなかった。母親の写真すら見当たらなかった気がする…」
希久美は、あの時アルバムで見た泰佑のあどけない笑顔を思い出していた。
黙ってしまった希久美に構わず、テレサが今度はお刺身をつつきながら話を突っ込んでいく。
「でも、なんでオキクとだけ出来たの?」
「そうね、不思議ね。私にも謎だわ」
さじを投げたナミに、希久美が遠い目つきでエピソードを加えた。
「確か、菊江が死んでしまった今では永遠の謎だと本人も言っていたわ…」
「でも、菊江が死んだなんて誰が言ったのかしら?」
「それ、私よ」
希久美とナミが驚いてテレサを見た。
テレサが伏し目がちに、泰佑と会った日のいきさつをポツポツと説明する。テレサのカミングアウトを聞きながら、希久美もナミも開いた口がふさがらなかった。
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