第41話

「あらためて、ふたりの再会に乾杯」


 グラスをあわせるテレサと泰佑。

 奇しくも場所は、希久美が薬を盛ったホテルの高層階にあるクラブラウンジだった。泰佑は嫌な予感がした。仕事の話しから始めたふたりの会話。と言ってもテレサが一方的にしゃべるばかりで泰佑はグラスを注視して話しに乗ってはこない。テレサはお構いなしに、喋り飲み、やがて少し酔いが回ってきて、話しの方向がおかしくなってきた。


「ところで泰佑。あなた…もしかして高校は駒場学園だったでしょ」

「えっ?」


 驚いてテレサを見返る泰佑。彼がテレサの話しに、初めて見せたレスポンスだ。


「図星でしょ。わたしね、一級下で、泰佑を野球部で見たことがあるの」

「そうですか…」

「あの頃の私はまだうぶな女子高生だったのよね。ねえ、そんな私が、どうやって一人前の女性編集担当に成り上がっていったか知りたい?」


 泰佑が別に聞きたくもないと、答える間もなくテレサが勝手に話し始める。泰佑はテレサの話しとは別の世界にいたが、やがて意を決したように、テレサの話しに割って入った。


「ちょっと待ってください」

「なに?」

「高校で一級下だといいましたよね」

「それが?」

「小川菊江という女の子を知っていますか?」


 泰佑の口から出た名前に、テレサのほろ酔い加減が吹き飛んだ。なんでそんなことを聞くの。


「そんな子がいたような気がするけど…」


 泰佑がテレサの腕を掴んで、その話題に突っ込んでいく。


「その子が今どこにいるか知ってますか?」

「さあ…」

「同窓会名簿でその子の連絡先だけでもわかりますか?」


 テレサの警戒がますます深まる。泰佑の追及があまりにも厳しいので、変にとぼけてもボロが出そうに感じたテレサは、話題に終止符を打つべくとっさに嘘をついた。


「ああ、確かその子、交通事故で亡くなったって聞いたわ」

「えっ、本当ですか…」


 泰佑の落胆は尋常ではなかった。テレサは、別の嘘を言えばよかったと後悔したがもう遅い。


「いつ亡くなられたんですか?」

「高校卒業した直後かしら…」

「そうですか、どおりで探しても、忽然と消えたように消息がつかめなかったわけだ…」


 泰佑は意気消沈してまた自分のグラスに視線をもどした。

 テレサは考えた。泰佑は本当に今の希久美と菊江が同一人物であることがわかっていない。しかし、なんで今更菊江を探しているのだろう。謝罪するつもりかしら。謝罪したくらいで、希久美の怒りが収まるはずがない。

 テレサは泰佑の長いまつげの横顔を見つめた。ああ、こんなセクシーな男が希久美にインポテンツにされてしまうのは本当に惜しい気がする。希久美には申し訳ないが、もしかしたらその前に一口だけ味わうと言うのもありかもしれない…。

 テレサの罪のない非常識が暴走し始めた。

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