第22話
「チイママ。男に愛される方法を教えてください」
「あら、あなたえらく直球でアスクね」
チイママはしばらくヒョッコ3人娘を眺めていたが、またグラスを置いてしゃべり始めた。
「いいわ。今夜は暇だから特別に教えてあげる」
4人はテーブルの中央に頭を寄せた。
「いかに美しいニューハーフとは言え、相手はわたしがもともと男だったことを知ってるわけでしょ」
「うん、うん」
「だから、いきなり迫ったら失敗ね。ゆっくり、はいずって、なめるように、ステップを踏んでアプローチしていくの」
「みんな、メモよ!」
「まず、ステップ1。お互いを下の名前で呼び合うようにするの。シンプルだけど自然と親しくなるいい方法よ。親しくなると相手の男は、ニューハーフを女と言うよりはいい友達として見るのね。いくら女の姿をしていても、まさか自分が元男に惚れるわけない。実はこの『絶対あり得ない』という気持ちが、あとあと落とし穴になるのよね」
「うーん…わかる気がする」
「次に、ステップ2。お互いに共通で出来る作業を作るの。私たちがよくやる手は、部屋の模様替えとか引越しの手伝いをお願いするの。ニューハーフだから力がなくて重い荷物が持てない、なんて甘えてね。ここだけの話だけど、全く嘘よ。いくらニューハーフでも筋肉だけは男を捨てられないの。その辺の男よりよっぽど力があるわ」
三人娘は、力こぶを作るチイママの上腕筋を眺めた。テレサが吐きそうな顔して目を逸らした。
「えっと話を戻して…。そうすると自然にふたりだけの時間が作れるようになるのよ。この自然と、と言う感じが重要なの」
「だんだん、獲物が近付いて来た感じですね」
ナミが誰よりも身を乗り出して言った。
「そうよ」
チイママは、乗り出してきたナミの額に手をあてて押し戻す。
「そして、ステップ3は相手の私生活に触れること。相手の私生活に触れることによって、『親しい友達』が、『特別な友達』に変化するの。大切なことよ」
「そうか…」
「これはいろんなやり方があって、例えば…引越しのお手伝いのお礼に彼の家に食事を持っていくとか。彼の友達の集まりに同行するとか。極端な例では、彼の奥さんやお子さんにお会いするとかの例もあるのよ。要は、相手の気持ちや状況に合わせて臨機応変に方法を見つけることね」
「なんか、怖くなってきた…」
「いよいよ仕上げよ。特別な友達になったところで、一瞬自分の弱さを見せるの」
「弱さ?」
「なんでもいいの。弱さをみせると大概の男は『こいつの為になんとかしてやりたい』と思うのよ。そしてこの想いは、いつしか『こいつは自分を必要としている』になり、結局『こいつを自分のものにしたい』欲求につながっていく。男の所有欲が呼び醒まされる瞬間ね」
「如来降臨って感じ?」
「ぜんぜん違うんじゃない?」
「うるさいわよ小娘たち、話をお聞き!いよいよ決めどこよ。弱さを見せて『必要としている』の想いを生み出し、それを『自分のものにしたい』の実行動に進化させるには、もうひと工夫が必要なの。何だと思う?」
誰もが返事をせず。固唾を飲んでチイママの答えを待った。
「どこでもいいから女の身体の一部分をチラ見させるの。いい、モロ見はだめよ。相手が引いちゃうから、あくまでもチラ見…。うなじとか、足首とか、唇とか、まつ毛とか…。すると、不思議ねぇ、その部分を見た男たちが完全な女として私たちを錯覚してしまう瞬間が訪れるのよ。いわば、樹を見て、森を見ずって事かしら…。そう、これがクライマックス。この瞬間をモノにできれば、本能に抗えない男達は、ほぼ100パーセント私たちの体に落ちてくるわ」
「チイママすごい!」
「感動した…」
興奮する希久美。ナミなどはもう涙ぐんでいた。
「余計な話だけど、一度私たちの身体に落ちた男たちは、なかなか抜けられないみたいね」
「どうしてですか?」
「ばかね、案外気持ちいいからに決まってるでしょ」
「すみません。そっちの話しも詳しく教えてもらえませんか?」
身を乗り出してきたテレサの額を、チイママは押し戻した。
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