第21話

「ところで、ニューハーフのみなさんは、私たち…モノホンなんかより断然色気がありますよね」


「ちょっと馬鹿にしないで。あなた何人の男知ってるの?せいぜい数十人でしょ」


 ナミは話の流れ上、医師になる勉強に忙しくこの年で未だ処女だとは言いだせない。


「私たちは百人の単位で男を知ってるのよ。なかには千人の単位の奴もいるわ。色気は、やっぱり男の数で決まるの」

「当然、複数プレイもなきゃそんな数達成できませんよね?」


 的を外したリアクションのテレサを睨みつけるチイママ。希久美は慌ててとりなす。


「私もチイママみたいな色気を身につけて、幸せになりたいなぁ」


 そう言いながら、希久美はチイママに酒を勧めた。チイママもだいぶ酒が回ってきたのか、口が柔らかくなってきた。まあ、もともとニューハーフはおしゃべりな人種なのだが。


「幸せ…。でもね、実は楽しいニューハーフにも悲しいお話があるのよ」

「なんです?」

「今日は女同士、何でも話してすっきりしちゃいましょう!」

「あらま、この娘たち何?なんだか私の子宮で、警戒警報が鳴ってる」

「えっ、子宮もあるんですか?」

「この前ドン・キホーテで買ってきたの」

「ハハハハ、ハァ?」

「いいから、信用して話して下さいよ」

「うーん…。実はね私たち、神様のいたずらで、女のこころを持って、男の体で生まれてきてしまったじゃない」

「ええ」

「男の身体を持つ私たちが、女であることを実感できる幸せな時って、どんな瞬間だか知ってる?」


 しばし考える三人。やがてナミが真面目口調で答えた。


「それは、やっぱり女性らしい身体と美しさを得た時でしょう?」

「あんた、浅いわね…。男に愛されたことないでしょ」


 チイママの言葉が、誰もの予想を大きく上回る深さで処女のナミの胸に刺さった。


「私たちが女であることを実感できる時は、やっぱり男に愛された時なのよ」


 そう言うと、チイママはグラスをぐっと飲み干して、空いたグラスを希久美に差し出す。希久美は慌ててグラスに酒を満たした。


「生まれた時の姿で男に愛されるなら、身体なんかいじらないわ。このままの身体では男に愛されないから、いじるのよ。お金を貯めては、胸を変えに海外へ行き。一生懸命働いてまたお金を貯めては、別の場所を変えに行く。自分を切り刻んで、膨らまして、へこませて。いつしかフェラーリと同じくらいのお金を自分の身体にかけて…。それもこれも、男に愛されて女であることを実感するためなの。モノホンのあんた達には解りっこないわよね」


 3人の本当の女たちはあらためてチイママの身体を見入ってしまった。


「やがて、年老いたニューハーフは、身体をいじることもできなくなっていく…。ねえ、男に愛されなくなったニューハーフってどんなに惨めだかわかる?女でもない、男でもない、自然界に存在してはいけない不気味な生物よ。その先にあるものは…まあビリー・ホリデーに言わせれば、『奇妙な果実』そのまんまね」

「ねえ、ビリー・ホリデーって誰?」


 希久美は小声で聞いてきたテレサの尻をつねって黙らせた。


「チイママ。今日は女同士、楽しく飲みましょうよ」


 希久美はチイママのグラスに氷を足した。チイママの言葉で傷ついたナミが、気を持ち直して問いかける。

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