第14話

 希久美とテレサが、西新宿のホテルのロビーカフェで落ち合っていた。お互いなぜかサングラスを外そうとしない。


「今日、ナミは?」

「休日当直らしいわよ」

「そう…。彼女は本当の医師だから、確かにこれ以上関わらせない方がいいかもね」

「そうね。見て、これが例の薬よ」


 テレサは、バッグから顆粒の薬を2包取り出しテーブルの上に置いた。


「これか…。よく買いに行けたわね?」

「私も怖いから会社の若い衆に行かせたのよ。彼らの手間賃も入れて4万円よ」

「えっ、ふたつで4万円!そんなに高いの?」

「復讐もお金がかかるわね」

「しょうがないか、モンテ・クリスト伯も大金持ちだからこそ復讐ができたんだから」

「誰それ?」


 希久美は、相変わらずのテレサに首を振りながらお金を渡した。


「ところでさ、買ったのはみっつでね、ひとつ今の彼に試してみたの」

「えっ、それならひとつ分のお金返してよ」

「そんなケチくさいこと言わないの。もし効かなかったら、オキクの貞操が危なくなるでしょ」

「ご心配いただきまして、すみません…」

「それでさ、水に溶かして飲ませたの」

「どうだった?」

「確かに5分後位から効き始めて、20分間位まったく使い物にならなかったわよ」

「聞かなくてもいいことだけど、その後はどうしたの?」

「彼の自信を回復するために、えらくサービスしちゃったわよ」

「やっぱり聞かなければよかった…」

「それにこれ」


 テレサが今度は、バッグから赤い袋の顆粒を2袋取り出しテーブルの上に置いた。


「若い衆が言うには、サービスだって、闇の薬局がくれたらしいの」

「なにこれ?」

「無性にやりたくなる薬だそうよ」

「なんでそんなものを…」

「やれなくなる薬とやりたくなる薬がご対面するなんて、ミステリアスねぇ…。なんか、何でもできそうな気にならない?」


 テレサの感性は時々理解できない。


「サービスで貰ったこの薬はひとつ頂くわよ」

「いいけど…」

「なんか超役立ちそうだわ」

「でも、やりたくなる薬を飲ませて、すぐにやれなくなる薬飲ませたら、体が変にならないかしら?」

「なったらなったでいいんじゃない。どうせ復讐なんだから…」


 そんな大雑把なテレサの言葉に、納得していいものどうか迷いながらも、とにかく希久美はやっとスタートラインについたような気分になった。合図を待つ陸上選手よろしく、復讐がいよいよ始まるという緊張感で胸が高鳴る。

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