第12話
「医学的に男性においての性的不能は、勃起不全と言うのよ。よくテレビでやってるED(Erectile Dysfunction)というやつね。解剖学的に勃起機能に異常がある場合と、異常は無いけど、何らかの心理的要因などによって満足な勃起が得られない場合とがあるの」
ナミは真剣に聞き入るふたりを見ながら、満足そうに話しを続ける。
「今回当てはまるのは『心因性勃起障害』ね。ホモセクシャルは別として、精神的なストレス、性に対する誤った教育環境、失業などによるストレス、性行為に対する自信喪失が原因で発症すると言われているの。新婚初夜での性行為の失敗が原因となっておこる新婚勃起障害なんてのもあるのよ」
「へえ、つまり心因性のEDは後天性の病気なのね」
「さすがオキク、わかりが早いわね」
「相手のセックスをさんざん侮辱したら、それになっちゃうわけ?」
「そんな単純なものじゃないと思うけど…。精神科学の論文に、男性を傷つけて勃起不全を誘発する代表的なコメントとして『役立たず。』『私に恥をかかせないで。』『男として終わりね。』が取り上げられていたわ」
「でも、EDを治す薬ってのは良く聞くけど、EDにする薬なんてあるの」
「そんな薬あるわけ無いじゃない。でも…。EDに処方する薬として、PDE5阻害薬と呼ばれているものがあるの。ペニスの勃起を止める酵素PDE5(ホスホジエステラーゼ タイプ5)を阻害する薬なんだけど、逆の発想でこの酵素PDE5を投与すれば、ある一定時間は勃起をとめることが可能かもしれない…」
ナミは話に夢中になっていたが、やがて自分の話の重大性に気付いてしまった。
「ちょっと待ってオキク!なにメモしてるの。調子に乗ってしゃべりすぎたけど、医師としてこの計画は賛成できないわよ。倫理に反する。下手すれば医師免許とりあげられてしまうわ」
慌てて打ち消すナミに今度はテレサが話の後を引き継いだ。
「つまり整理すると、悪党をベッドに誘っておいて、ことの直前にそのなんとか5とかいう薬を飲ませて役立たずにする。そこで間髪いれずに、『この役立たず。』『私に恥をかかせた。』『男として終わりね。』を連発すれば、悪党はめでたくインポテンツになるってわけね…」
「ちょっとやめて!私は知らないわよ」
「問題はどこでその『なんとか5』を手に入れるかね…」
「きゃー。私もう帰る!」
席を立とうとするナミをふたりの親友が押さえつけた。
「ここで帰すわけにはいかないわよ」
「そうよ、発言しなくてもいいから、私たちの話しを聞いてなさいよ」
ふたりはナミをはさんで話し続ける。
「巻き戻すわよ…」
「どうぞ」
「どうやってその薬を手に入れるかが問題よね」
「そうよね」
「やっぱりプロじゃないと手に入らないのかもね」
「そうよね、手伝ってくれたら、いいものあげちゃうかもねぇ」
「そう言えば、テレサの持ってたコーチ(COACH)のバッグ。欲しがってる人いたわよねぇ」
「惜しい気もするけど、オキクがそうしろと言うなら、あげちゃうかもねぇ」
ふたりはナミを見た。いたたまれないナミは、ちょっとトイレへと席を立ってしまった。やはり本物の医師であるナミに協力を求めるのは無理か。残されたふたりで、あらためてナミのアイデアの実現性を検討していると、突然テレサの携帯が鳴った。
「もしもし、えっ誰?…なに?」
テレサはハンドバックからシステム手帳とペンを取り出し、何やら書き込んだ。電話を切ったテレサは、希久美に言った。
「問題解決よ。どんな薬も処方箋無しで手に入れられる『闇の薬局』ってのがあるんだって。」
「ねえ、誰から?」
「それが…声は女性みたいなんだけど、名乗らないのよ。着信番号も非表示だからわからないわ。そう言えば水が流れる音も聞こえてた。でも不思議よね。こんなグッドタイミングに、いったい誰かしら?」
テレサは相手が誰だか本当にわからないらしい。
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