第11話

 ワインバーに集った3人の元女子高生。人数にふさわしくない数のコルク栓が散らばるボックス席では、今夜は、ひとりの元女子高生の話しに、あたりを気にせず大笑する喧しい宴になっている。


 テレサが笑いすぎた涙を拭いながら希久美に言った。


「なんでそこで泣かなくちゃならないわけ?」

「私もよくわかんないのよ。自然と涙が出ちゃって…」


 ナミも笑いながら希久美を慰める。


「結果的には、悪党にセクハラ男のラベルを貼れたから、良かったんじゃない」

「でも、少しすればラベルも風化する…」


 テレサは、ふたりのグラスにワインを注ぎ足す。


「オキクの言う、―死ぬまで自らの『おこない』を悔いる人生―ってどんな人生なの?」

「あれから私も考えてみたんだけど、一生消えない負のマークを付けるようなことかしらね」

「たとえば…腕か足を一本もぎ取るとか。のどを潰して声を出なくするとか。目ん玉くりぬいて目を見えなくするとか?」


 テレサの発想は常に短絡的だ。希久美が反発する。


「キルビルじゃあるまいし…。私たちのテイストに合わないんじゃない」

「それに身体的ハンディを持っていても、健常者以上に明るく逞しく生きている人も多いわよ」

「批評だけでなくアイデア出してよ」


 切れかかっているテレサを、ナミがなだめながら、ひとつの提案をした。


「悪党は結婚してるの?」

「指輪してなかったからまだじゃない」

「なら、こういうのどう…」


 希久美とテレサがナミの話に注目する。


「男にとって生きてて一番つらいのは、男としての使命を果たせない事じゃないかしら」

「どういうこと?」

「つまり、女を喜ばすこともできず、子供も作れない」

「そりゃ悲惨だわ」

「そう、ここはやっぱり性的不能者にするってのが一番フィットするんじゃないかしら」

「あそこを切り取っちゃうってこと?」


 テレサの短絡発言がまた出た。


「やめてよ、阿部 定じゃあるまいし」

「誰それ?」


 ナミはテレサの無知に呆れて、希久美に向かって話を続けた。

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