私はカミサマ!

朝日が差し込み、目が覚める。

清々しい朝だ。

……と、思っていたのも束の間、護は目の前に「小さな妖精が浮いている」ことに気がついた。

妖精は手のひら程の大きさで、背中に蝶のような羽が生えていて、羽ばたく度に辺りに金色の鱗粉りんぷんきらめいている。

見間違えだと思い目を擦っても、妖精は護の目の前に浮いている。

「私はカミサマ! 『世界の裏側』が大ピンチだから助けに来て!」と、妖精は甲高い声で叫んだ。

「……は……?」

「だーかーらー! 『世界の裏側』が大ピンチなのー!」

「いや、そもそも『世界の裏側』ってなんだよ…」護はカミサマに聞いてみる。

「『世界の裏側』はね、『世界の表側』、つまり今いるこの世界の反対側にある世界なの! 『世界の裏側』と『世界の表側』は繋がってるから、向こうがピンチだとこっちもピンチなの!」と、カミサマは言った。

これは夢だと思いながらも、護はカミサマに「……で? 『世界の裏側』を救えってこと? どうやって?」と聞いた。

「えーっとね、『世界の裏側』にいるわるーいヤツらを倒せばいいの! 武器は向こうで渡すから大丈夫なの! とーにーかーく! 私に着いてきて欲しいの! それ!」と、カミサマが叫ぶと、護は光に包まれた。


……で、気が付くと謎の場所に居た……。

紫色の空、血のように紅い植物が足元に生い茂っている。

あおい月のような星が不気味に輝いている。

そして、目の前には牛のような角の生えた熊のような生物が、二本足で立っていた。

「……ここが『世界の裏側』?」

「そうなの! とりあえずその剣であのバケモノをぶっ倒して欲しいの!」とカミサマは護の周りを飛びながら言った。

気が付くと護の右手には宝石の散りばめられた剣が握られていた。

刃渡りおよそ80センチ。

その見た目に反して非常に軽く、痩せ型の護でも容易に振り回すことが出来る。

バケモノが護の方に振り向いた。

そして、咆哮ほうこうをあげながら丸太のように太い右腕を振り下ろしてきた。

護は咄嗟とっさに剣でバケモノの右腕を振り払った。

バケモノの右腕が宙を舞い、護は鮮血を浴びた。

バケモノは仰け反りながらうめき声をあげている。

護は両手で剣を握りしめ、バケモノの胴体目掛けて渾身こんしんの力を込めて振るった。

バケモノの上半身はその場にゴトンと音を立てて落ち、下半身は力なく膝をついた。

臓物ぞうもつが零れ落ち、赤黒い血が噴き出している。

「すごい! 護はバケモノを倒したの! この調子でもっともっとバケモノを倒して欲しいの!」カミサマは手を叩きながら興奮気味に言った。

護は、自分が振るった剣によって出来た無残な死体を見て震えていた。

「僕が殺した……僕が……」

「何言ってるの! アイツはこわーいバケモノなの! 護はそれを倒したの! 護はヒーローなの!」


赤黒く染まった剣に映る自分の顔を護は見た。

そこには、引きった顔をした十代の少年が映っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヘイワノカミサマ あすま @masa223620679

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ